●こんなお話
冤罪の主人公が警察からの追跡を逃げつつ真相を探る話。
●感想
山間を逃げる男、高倉健。その背を追うのは原田芳雄。これだけでも十分にワクワクさせられるのですが、さらに輪をかけて盛り込まれていく数々の無茶な展開が、この作品をより一層忘れがたいものにしていました。まさに、ツッコミどころ満載の“娯楽映画”という言葉がよく似合う一本です。
物語の主人公である高倉健さんは検事という設定なのですが、まずその役柄とのギャップがすでに強烈で、セリフ回しや立ち姿からはどうしても堅物の法曹関係者という印象を受けにくいです。しかし、それがかえってキャラクターとしてのユニークさを際立たせており、真面目さと滑稽さが混在した魅力的な人物像を形作っていました。
山中を逃走中、突然どこからか女性の悲鳴が響いてくる。駆けつけると、木の上にヒロインが登っており、その下では着ぐるみのような妙に人間味ある熊が唸っているという、衝撃的な出会いのシーン。しかも偶然拾った銃で熊と戦うという展開には思わず笑ってしまいました。さらに別の場面では、原田芳雄さんまでもが熊に襲われるという、熊の奮闘ぶりも見逃せない要素です。
セスナ機の操縦に関しても驚きが続きます。飛ばし方をろくに知らないはずの健さんが、ちょっと教わっただけで見事に離陸。逃走に成功してしまうという豪快な展開。しかもその後、海に不時着したにもかかわらず、まるで散歩から帰ってきたかのように無傷で帰還。観ていて突拍子もなさに呆れるやら笑うやらでした。
そしてさらに驚いたのは、新宿での逃走劇の中で、突如登場する大量の馬たち。まるで意思を持ったかのように健さんの逃走を助けてくれるというシーンには、思わず「どこから来たんだ、馬たち…」と心の中で問いかけずにはいられませんでした。
極めつけは、真犯人を探るために精神病院へ自ら潜入するというくだり。正気の検事が、証拠を掴むためとはいえ精神科の患者になりきって入院するという筋書きは、さすがに無茶苦茶な設定ながらも、どこか引き込まれてしまう不思議な魅力がありました。この病院内でのパートはやや長めに感じましたが、健さんの演技がコミカルさもあって、見応えがありました。
全編にわたって流れる音楽も印象的で、軽快かつ奇妙なメロディーがシーンをさらに際立たせています。シリアスな場面にもどこか笑いを誘うような効果を加えており、映画全体に一貫して独特のテンションを与えていたように思います。
一つひとつの展開がいちいち突飛なのに、なぜか物語としての軸がぶれず、テンポも良いため、気がつけば2時間半という長さをまったく意識せずに最後まで楽しめてしまいました。派手なアクションや感情の大きなうねりだけでなく、こうした型破りなストーリーテリングこそ、テレビドラマではなかなか実現しない映画の醍醐味だと感じさせてくれた作品です。
☆☆☆☆
鑑賞日:2011/12/04 DVD
監督 | 佐藤純彌 |
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脚本 | 田坂啓 |
佐藤純彌 | |
原作 | 西村寿行 |
出演 | 高倉健 |
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原田芳雄 | |
池部良 | |
大滝秀治 | |
中野良子 | |
倍賞美津子 | |
内藤武敏 | |
岡田英次 | |
西村晃 | |
田中邦衛 |