●こんなお話
アイドルプロモーションに密着するテレビ番組が、そのアイドルの新曲の作曲家がいわくありと判明していって恐怖体験していく話。
●感想
テレビの特番用に撮影された、あるアイドルのプロモーション密着映像。その素材をひとつの“テープ”として追体験していくような構成で始まっていきます。画質は荒く、どこか擦れたノイズも多く、いわゆるテレビドキュメンタリー的な空気感が前面に出ていて、そこがすでに不気味な印象を醸し出していました。モキュメンタリーというジャンルの強みがうまく生かされているように感じました。
物語は、アイドルの新曲発表に向けてのプロジェクトを、テレビクルーが取材するという設定。プロデューサー、作詞家、振付師といった制作陣へのインタビューを重ねていく中で、彼女のグラビア撮影、レコーディング、プロモーションビデオの現場へと密着していきます。最初は何気ない業界ドキュメントのように見せながら、次第に画面の隅や背後に“何か”が映り込むようになっていきます。全体として直接的な恐怖表現は抑えられていて、観る側が「あれ?」と感じるような、じわじわとした違和感が積み重ねられていく手法が秀逸でした。
特に、レコーディング中に録音された音に奇妙なノイズが混じっていたり、スタッフの言動にわずかな異常が表れていくあたりは、単に“怖がらせる”のではなく、“不穏さを感じさせる”演出が多く見られた印象です。個人的にはこのあたりのバランス感覚がとても好みで、押しつけがましくないホラーの良さがしっかりと表れていたと感じました。
作中で印象的だったのが、ある関係者が、曲の作曲家について語るのを一様に避けようとする場面です。そこに明らかに何かある、と観ている側に想像させる演出が巧みでした。やがてその作曲家にまつわる手がかりが示され、調査を進めると…という流れで、物語はより一層スリリングになっていきます。取材班が接触を試みた関係者が乗っていた車が突如としておかしくなったり、映像そのものに異常が現れるなど、幽霊的存在の“攻撃”も明確になっていく中盤以降は、ホラーらしい見せ場が連続していて盛り上がりました。
上映時間が約50分と短めなのも、この手のモキュメンタリー作品にはとても合っていたように感じます。飽きる前に終わってくれる尺で、物語のテンポも失速せず、最後まで集中して楽しめました。
特に終盤のプロモーションビデオ撮影のシーンでは、幽霊がまるで“フィーバー”しているかのように現れては消え、アイドルの背後で何かが蠢き、スタジオの空気が変わっていく。そのあたりの視覚効果や音響の使い方が印象的で、クライマックスらしい緊張感が味わえました。
一方で、密着するインタビュアーの行動がやや暴走気味に見える場面もありました。たとえば「室内なのに風が吹いている」と口にしたかと思えば、そのままグラビア撮影中のアイドルに突撃してしまうとか、録音中に「何かいる!」と叫んで部屋に入っていくなど、冷静さを失っているようにしか見えず、撮影現場で本当に許されているのか心配になるほど。関係者の誰かが「出禁です」と言い出してもおかしくない状況でしたが、こうした振る舞いすらも作品内では“リアルな恐怖”のひとつとして演出されていたのかもしれません。
全体として、ジャンルとしてのモキュメンタリーホラーの魅力をしっかり詰め込んだ一本だったと感じています。怖がらせ方に工夫があり、短い時間の中で印象に残る演出が多く、観終えた後にも余韻が残る、そんな作品でした。
☆☆☆
鑑賞日:2021/06/21 Amazonプライム・ビデオ
演出 | 石井てるよし |
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構成 | 小中千昭 |
脚本 | 小中千昭 |
出演 | 竹中直人 |
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石山一枝 | |
梅原正樹 | |
佐藤恵美 |