●こんなお話
ピラニアが襲ってくる話。
●感想
春休みの陽射しが湖畔へ降り注ぎ、学生たちは一斉にスプリング・ブレイクの高揚感に包まれながら集まっていた。音楽が響き、浮き輪が漂い、若者たちは無邪気な騒ぎの中で開放感を味わっている。そんな明るい水面のはるか下、湖底ではわずかな揺れが走り、小さな地震が古い地層にまで伝わっていた。大地の裂け目は静かに口を開き、黒々とした隙間が広がるように湖の底を走る。釣り人が何も知らずボートを浮かべていたが、突如として水が渦を巻き、裂け目の闇へと吸い込まれていく。その奥底から姿を現したのは、何百万年も閉じ込められていた原始の肉食魚“プレヒストリック・ピラニア”だった。
湖の治安を預かる保安官ジュリー・フォレスターと副保安官フォールンは、釣り人の行方を追って現場に向かう。穏やかなはずの水辺に残された痕跡は悲惨で、彼らはこの異様な状況に胸をざわつかせる。
一方で、ジュリーの息子ジェイクは、地元でアルバイトをしていた彼は、偶然目にしたポルノ映画のロケ隊に案内役として同行することになる。やがて旧友ケリーや、派手な態度を隠そうともしないプロデューサーのデリックが加わり、湖上では騒ぎがさらに加速していく。音楽と酒が渦巻く中、若者たちは湖の不穏な変化に目も向けず楽しさだけを追っていた。
だが、湖底から浮上したピラニアは、次第に水面近くへ広がり、音もなく若者たちへ迫っていく。水面に広がる波紋の奥で、影のような群れが高速で動き回り、獲物の足を狙って突き上げるように襲いかかる。彼らの姿はまるで小さなハチドリが水中で跳ね回るかのようで、わずかな隙を突いては肉を食いちぎっていく。
ジェイクは、家で留守番をしているはずの幼い兄妹が、小島に取り残されてしまったことを知る。急いで助けに向かったが、周囲にはすでにピラニアが群れを成し、ロケ隊のスタッフも次々と襲われていく。逃げ惑う人々の悲鳴が湖面に響き、血が水に広がる中で、ジェイクは兄妹を抱えて必死に逃げ道を探す。
そこへジュリーが駆けつけ、子どもたちを救うため湖上に張られたロープを渡る作戦を試みる。しかし周囲にはまだピラニアが潜んでおり、ロープにしがみつきながらも仲間の一人は髪を水中に引かれ、そのまま飲み込まれていく。
ジェイクはロケ隊の船に取り残された恋人ケリーを救うため、沈没しつつある船へ戻る。追いすがるピラニアを振り切り、船を爆発させて一帯の群れを吹き飛ばす。湖には静けさが戻り、ようやく事態は収まったかに見えた。
だが、海洋生物学者グッドマンから届いた報告は、見つかった個体の卵巣は未成熟であり、真の成魚がまだどこかに潜んでいるという。でおしまい。
ピラニアが姿を現すまでの展開がかなりゆっくりで、ポルノ映画の撮影隊や子どもたちの冒険、保安官と学者の調査といった複数の流れが並行して描かれ、明るい湖畔の雰囲気の中で淡々と物語が進んでいきます。この段階では、物語と関係のない人物が犠牲になる場面が散発的に挿入されるだけで、緊張感が高まり切らない印象を受けました。もっと早い段階で湖の混乱が始まると、物語全体のバランスが引き締まったかもしれません。
ただ、中盤からのピラニア襲撃シーンは一転して凄まじい勢いで、ここから急に作品が面白さを増していきます。水中からのアタックが始まると、次々と人間の体が引き裂かれていき、映画全体のテンションが明らかに変わります。
さまざまな形で身体が破壊される描写が続き、過剰なまでの演出が逆に笑いを誘う場面も多く、その振り切れた姿勢には作り手のサービス精神を感じました。
主人公たちの行動も、思わず突っ込みたくなる大胆さがあり、その荒っぽさを含めて楽しめる構造になっていたと思います。狙ってやっているのが伝わるので、緩い部分も含めて作品全体の味わいになっていたように感じました。
ただし、3D表現はやや弱く、立体感を期待して観ると物足りない印象があります。とはいえ、全裸の女性が浮かび上がるシーンや水中でのリバースを3Dで映し出すという、珍妙な方向性の挑戦をしている姿勢には遊び心があり、意外な部分で笑いも起きました。
全体として、勢いで駆け抜ける90分を期待すると前半は少し長く感じますが、後半の混乱からラストへかけての盛り上がりはしっかり楽しめる作品でした。
☆☆☆
鑑賞日:2011/08/26 TOHOシネマズ府中 2025/11/15 DVD
| 監督 | アレクサンドル・アジャ |
|---|---|
| 脚本 | ピーター・ゴールドフィンガー |
| ジョシュ・ストールバーグ |
| 出演 | エリザベス・シュー |
|---|---|
| アダム・スコット | |
| ジェリー・オコンネル | |
| ヴィング・レイムス | |
| ジェシカ・ゾー | |
| スティーヴン・R・マックイーン | |
| クリストファー・ロイド | |
| リチャード・ドレイファス | |
| イーライ・ロス |


