映画【i 新聞記者ドキュメント 】感想(ネタバレ):行動する記者と、見つめ直すジャーナリズムの姿

i-shimbunkisha
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●こんなお話

 東京新聞の望月記者VS菅官房長官の話。

●感想

 キャリーバッグを引きながら、都内を縦横無尽に動き回る望月衣塑子記者の姿を追った110分は、目まぐるしい展開に圧倒される時間でもありました。目を離している暇もないほどに、ひとつの出来事からまた次の取材先へ、彼女の行動力と気迫は終始画面の中心にあり、時に周囲の空気さえも変えてしまうほどの熱量がありました。

 日々の記者会見では、誰もが言葉を選び、黙り込むような空気が広がる中、ただ一人、疑問を口にする姿が印象的で、ジャーナリズムの根本的な意義について改めて考えさせられました。記者が権力に問いを投げかけるという当たり前の行動が、いかに特異なものとして扱われてしまっているのか。その事実が静かに、しかし鋭く浮かび上がっていきます。

 記者クラブ制度や会見での指名制、そして質問の内容や回数を制限しようとする側の姿勢。菅官房長官や麻生財務大臣が会見中に見せる表情や対応が、特別な演出があるわけでもないのに自然と強い印象を残すのは、映像が記録した事実そのものの力だと思います。 

 森達也監督はその中で、スパイ映画のようなテンションを時折挟み込みながら、望月記者の活動と並行して、自身がどうやって首相官邸の記者会見に潜り込めるかを模索していきます。眼鏡型のカメラを仕込んで裁判所に忍び込み、結局望月記者に注意されてしまうというユーモラスな場面もあり、時に笑ってしまうような瞬間があるのも、この作品の魅力のひとつだと思います。

 首相官邸前では、政権を支持する側と反対する側の両方がマイクで意見をぶつけ合い、緊張感のある空気が続きます。その中で森監督の視点はあくまで引き気味で、感情的になりすぎることなく、あくまで現場の姿を淡々と捉えていく姿勢が印象に残りました。

 観ている間に感じたのは、この作品がエンターテインメントとしても成り立っているということです。取材の過程や記者会見のやりとり、そして森監督の行動を通じて、日本の政治や報道の在り方について知らなかった事実を次々と知ることができる構成になっていて、情報としての濃度がとても高いにも関わらず、語り口は親しみやすく、観客を置いてけぼりにしない工夫が随所に見られました。

 このドキュメンタリーを観終えて、日本の政治や報道の現場において、今何が起きているのかをもう一度しっかりと見つめなおす必要があるのではないかと考えさせられました。そして、政権に近い立場や保守側の視点からもドキュメンタリーが作られ、多角的な視点が共有されるようになったら面白いのではないかという思いも浮かびました。

☆☆☆☆

鑑賞日:2020/07/28 NETFLIX

監督森達也 
エグゼクティヴプロデューサー河村光庸 
出演望月衣塑子 
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