●こんなお話
お母さんと娘さんが旅行で高速バスに乗ってたら居眠りの運転手がハンドル操作誤って、転落事故起こしちって母は亡くなり娘が意識取り戻したと思いきや、身体は娘だけど意識は母親っつう面倒なことになっててんやわんやの話。
●感想
ある事故をきっかけに、母親の魂が娘の身体に宿る。そんな一風変わった設定から物語は始まる。冒頭から展開は早く、観客はすでに起こってしまった「入れ替わり」の状況に放り込まれる。そのため、家族の背景やそれまでの関係性については描かれず、やや戸惑いながらも、主人公である父親と母親、そして娘が織りなす不思議な時間が静かに流れていく。
母親の意識を宿した娘は、日常生活に戻るべく学校へ通う。しかし中身は大人の女性、しかも自分の母親ということで、振る舞いには当然ズレが生じる。そのコミカルなギャップが序盤にはユーモアとして描かれ、軽やかなテンポで観客の心を引きつけていく。そして、母親の魂を持つ娘がこの不可思議な現象を解き明かそうと医学の道を志す姿も描かれる。彼女が真剣に進路を考える様子には、切実さとともにどこか静かな情熱も感じられました。
一方、夫である主人公には複雑な思いがつきまとう。妻の魂は愛する女性そのものだが、目の前にあるのは娘の身体。葛藤を抱えつつも、彼の生活は続いていく。やがて主人公は学校の女性教師と少しずつ心を通わせていく。しかし、そこには当然ながら迷いや遠慮があり、心の距離を縮めきれない日々が重なっていく。
娘としての意識が少しずつ戻りはじめ、母親の魂は次第に薄れていく。それは彼らにとって避けられない変化であり、終わりへの静かな歩みでもある。これまで積み重ねてきた日々の中で描かれる夫婦の心の揺れや絆の強さが、次第に感情のうねりを伴って表れていき、やがて迎えるクライマックスでは感動的な音楽が加わって、心に迫るものがありました。
小林薫さんと岸本加世子さんの演技がとても印象的で、感情を抑えつつも滲み出る思いやりや葛藤を見事に表現されていたと感じます。日常の中の非日常という不思議な物語に説得力を与えるお芝居でした。
ただ、やや急な展開でスタートしているため、彼らがどのような家庭を築いていたのか、どのような関係性だったのかが想像に委ねられる部分が多く、少し距離を感じてしまったのも事実です。そしてラストでは、これまで隠されていたある秘密が明かされるのですが、その唐突さがほんのわずか違和感として残る場面もありました。
ヒロインの婚約者がこの物語の中でもっとも翻弄された人物なのかもしれません。けれども、それもまた人と人との関係のもつれであり、誰かを想う気持ちが引き起こした結果でもあるのだと受け取りました。静かな映像と感情の交錯が丁寧に描かれた、心に残る一本でした。
☆☆☆
鑑賞日:2014/07/15 Hulu
監督 | 滝田洋二郎 |
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脚色 | 斉藤ひろし |
原作 | 東野圭吾 |
出演 | 広末涼子 |
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小林薫 | |
岸本加世子 | |
金子賢 | |
石田ゆり子 | |
伊藤英明 | |
大杉漣 |