●こんなお話
王様を狙う暗殺者を始末したってんで、1人の役人が謁見を許される。彼の話からしだいに天下泰平について明らかになっていく話。
●感想
物語の舞台は、戦乱が続く戦国時代の中国。中華統一を目前にした秦王のもとに、ある日「無名」と名乗る男が姿を現します。無名は、かつて秦王の命を狙った三人の伝説的な刺客――長空、飛雪、残剣を自らの手で討ち果たしたと語り、王の前に召し出されます。
王の前で語られるのは、無名による壮絶な戦いの記憶でした。長空とは剣と剣が火花を散らす真剣勝負を演じて命を奪い、飛雪と残剣には互いの愛憎の狭間を突いた策略を仕掛け、敵を内側から崩壊させたと話します。その武勇と知略に心を動かされた王は、異例の対応として無名を自らの至近距離にまで招き寄せるのです。
しかし、王は無名の語る話の中に、どこか腑に落ちない違和感を感じ始めます。そして、自らの見立てとして、実は刺客たちはまだ生きており、無名は仲間として行動していたのではないかと語り出します。三人は王に近づくために、わざと無名に討たれたふりをしてその手柄を託した――そんな推理を王は淡々と述べていきます。
無名はその推理を否定することなく、今度は「真実の物語」として語り直します。本当は、最初から自分と刺客たちは王の暗殺を目的に結束していたのです。しかし、残剣との対話を通じて、無名は王が生きて中華を統一することこそが戦乱を終わらせる道ではないかと考えるようになります。剣による殺し合いではなく、力による安定が平和をもたらすのだと。
そして、ついに秦王の目の前に立った無名は、剣を手にしながらもそれを振るうことなく、思いを伝えるだけで身を引きます。無名は国家に対する忠誠と理想の狭間で決断を下したのです。結果、王の命により処刑されてしまいますが、その志と行動に深い敬意を抱いた王は、無名を「英雄」として称え、国葬を行うよう命じます。やがて物語は史実へと接続し、秦が中国を統一する未来を示して物語を締めくくります。
視覚的な魅力も際立っていた作品でした。画面いっぱいに広がる赤や青を基調とした色彩は、一枚の絵画のように美しく、ただ眺めているだけでも印象に残る映像表現が続きました。合戦の場面では、人民解放軍の協力を得たという大規模な動員による迫力がスクリーンいっぱいに展開され、まさに圧巻だったと思います。
ただその一方で、ストーリーは回想形式で語られていくため、どこまでが本当の話なのかを探りながら中盤までは興味深く観ていられましたが、やがて何度も同じ人物が別の視点で語る繰り返しにやや疲れてしまった印象もありました。回想が幾重にも重なることで真相に迫るという構成には、巧妙さと冗長さが紙一重に同居していたように感じます。
アクションとしての殺陣の場面も、一般的なバトルというよりは舞や演武のような様式美が中心で、観る人によっては少し距離を感じるかもしれません。ただその様式こそが本作の個性であり、異文化的な魅力でもあるので、そこは好みが分かれるところかと思います。
また、登場人物たちはほとんど笑顔を見せず、感情を表に出すことが少なく、会話もどこか哲学的で精神性を問うようなものが多いため、登場人物と感情を共有するというよりは、彼らの在り方を遠くから見つめるような距離感が生まれていたように思いました。
それでも、中国の雄大な自然と美術、壮大な群衆シーン、そして効果的に使われるCGは一見の価値があり、90分余りのコンパクトな上映時間もあって、最後まで集中力を保ちながら観ることができました。
☆☆☆
鑑賞日:2014/08/29 DVD 2025/08/01 Amazonプライム・ビデオ
監督 | チャン・イーモウ |
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脚本 | ビル・コン |
リー・フェン |
出演 | ジェット・リー |
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トニー・レオン | |
マギー・チャン | |
チャン・ツィイー | |
ドニー・イェン | |
チェン・ダオミン |