映画【ヘクトパスカル 疼く女】感想(ネタバレ):閉ざされた町と主人公の特異な体質が織りなす濃密な人間模様

Hekutopasukaru: Uzuku onna
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●こんなお話

 九州の小さな漁港で葬儀屋を営む未亡人のもとに青年がアルバイトで働き始めて、そこで未亡人が嵐が近づくと男を欲しくなってしまうという異常体質であることがわかって…な話。

●感想

 舞台は常に雨が降り続く町。じめじめとした空気と閉ざされた人間関係が重なって、画面から伝わってくる閉塞感は息苦しささえ感じられました。それでもその独特の雰囲気が、観る者を引き込む魅力になっていると思います。

 主人公は特異な体質を持ち、その存在自体が物語を動かす大きな要素になっている。しかし、その突飛な設定が最後までうまく活かされているかといえば疑問が残る部分もありました。物語の途中、誰とでも関係を持つ友人が現れ、唐突に濡れ場が挿入される。その展開自体は刺激的ではありましたが、流れとしては急で、登場人物の情念や欲望の積み重ねが薄く感じられたのも部分も。もっと執着や執念といった濃い感情を映し出してほしいと思わせる場面があったり。

 ロケーションや映像の湿度感は非常に良く、作品全体のトーンをしっかり支えていると思いました。ただ、主人公がかつて青年の父親と関係を持ち、時を経てその息子とも関係を結ぶという設定が語られても、その特異さが物語にどう作用しているのかが十分に伝わらず、魅力的な題材を活かしきれていない印象を受けてしまいました。

 似たような題材は過去の作品でも扱われていて、特に日活ロマンポルノの中には近しいテーマを持ちながら、より深い人間の欲望や愛憎を描いたものがあると思います。その比較を思い浮かべると、本作はどこか踏み込みの浅さを感じさせてしまうものでした。もしこの題材を徹底して追求するなら、思い切って激情に身を任せた展開を重ね、もっと濃密な絡みを繰り返すことで、作品としての熱量を高められたのではないかと感じました。

 とはいえ、閉ざされた世界に漂う湿った空気感や、雨が作り出す独特の映像美は印象に残るもので、題材そのものには強い力がある作品だと思いました。

☆☆

鑑賞日: 2015/11/09 DVD

監督亀井亨 
脚本亀井亨 
港岳彦 
出演穂花 
内田亮介 
幸将司 
里見瑤子 
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