●こんなお話
ベトナム戦争での前線の兵士の話。
●こんなお話
ベトナム戦争の激しい戦闘のさなか、兵士たちが泥と汗にまみれて過ごす日々が描かれる。冒頭では、熾烈な交戦の最中に仲間を失いながらも生き延びた兵士たちが、やがて後方へ戻り、新しく配属された新兵たちにさまざまなことを教えていく場面が続いていく。敵地と目と鼻の先にある拠点での生活は、気の抜けない日々でありながら、どこか時間が止まったような空気に包まれていた。
日々の訓練や生活指導といっても、それは歯磨きの仕方を教えることから始まり、年金や休暇の申請書類の作成、軍の制度についての説明、時には慰安所の案内まで、多岐にわたる。前線での戦いからは一時的に離れたものの、仲間たちの多くは再び最前線へと戻される運命を背負っており、できることなら異動したいと願う声も少なくない。しかし命令に逆らえるわけもなく、黙々と塹壕を掘り続ける兵士たちの姿が、静かに、しかし重く心に残る。
物語の中盤では、敵の拠点であるエイショウ・バレーでの決死の攻防戦が描かれる。崖に張りつくように陣取った敵を制圧するため、兵士たちは命を賭けて前進するが、混乱の中で味方のヘリコプターが誤射を起こしてしまうという痛ましい場面もある。激しい銃撃戦の末、ようやく谷を制圧するも、達成感よりも深い虚無が漂っていた。命を落とした仲間の名前を胸に刻みながら、兵士たちはその地を後にする。
こうした戦闘の合間に描かれるのが、前線の兵士たちの何気ない日常である。歯ブラシを手に真剣に磨き方を教え合う場面や、年金申請のための煩雑な書類を整える姿、限られた娯楽を楽しもうと慰安所に赴く場面など、どれもがリアルで、戦場の緊張感とはまた違う静かな空気を映していた。それがかえって、戦争の不条理や兵士たちの疲弊を際立たせているようにも感じられた。
群像劇のように登場人物は多く、それぞれに個性はあるのですが、物語が淡々と進む分、正直なところ途中で誰が誰か分からなくなってしまうこともありました。それでも、少しずつ心身ともに摩耗していく兵士たちの様子は、じわじわと伝わってきて、観ていて胸が締めつけられるような気持ちになりました。
戦争映画としての迫力というよりも、戦場という場所で日常を生きようとする人間たちの姿を描いている点が非常に印象的で、戦闘の裏側にある“生活”というものを静かに伝えてくる作品でした。緊張と虚無が交錯する中で、兵士たちの存在の輪郭が淡く浮かび上がるような、そんな余韻の残る一本だったと思います。
☆☆☆
鑑賞日:2023/04/07 WOWOW
監督 | ジョン・アーヴィン |
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脚本 | ジム・カラバトソス |
出演 | アンソニー・バリル |
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マイケル・パトリック・ボードマン | |
ドン・チードル | |
マイケル・ドーラン | |
ディラン・マクダーモット |