映画【激動の昭和史 軍閥】感想(ネタバレ):東条英機と記者たちが歩いた戦争への道

Gunbatsu
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●こんなお話

 日本がどんどんと太平洋戦争へと突入して敗戦していくまでの話。 

●感想

 映画は二・二六事件から幕を開け、日中戦争(支那事変)へと続き、やがてアメリカとの対立が深まっていく昭和初期の日本。開戦するか否か、政治と軍の板挟みに揺れる中で、東条英機が陸軍大臣から総理大臣へと上り詰め、国家の舵取りをしていく様子が描かれていきます。同時進行で進むのが、政権を批判したことで懲罰召集を受ける新聞記者を軸にしたもうひとつの物語。竹槍事件と呼ばれた実話をもとに、報道と権力、そして戦争を描く二重構造の作品になっていました。

 東条英機は、序盤では非常に真面目で、愛国心が強く、天皇の意向を尊重しようとする人物として登場します。彼の姿勢は決して好戦的というよりは、当初はむしろ外交による解決を模索していたように見えました。海軍の高官たちに対して「本当にアメリカと戦って勝てるのか」と繰り返し問いかける場面では、現実的な視点を持っている人物であることが丁寧に描かれていたように感じました。ですが、時間が進むにつれて、彼の周囲には権力が集中し、次第に独裁的な立場へと変化していく。そうした変化の過程が描かれるものの、心情の移り変わりにはあまり深く踏み込まれておらず、その点はもう少し見たかったところです。

 会議のシーンが多くを占めており、その都度、戦局や政局が動いていく構成になっていて、真珠湾攻撃への流れも丁寧にたどられます。戦争が始まり、初期の優勢な時期に「今こそ和平の機会だ」とする声もあがるものの、すでに東条は止まらなくなっていて、開戦という大きな決断をしたその先でも突き進んでいくことになります。

 中盤からは、報道の在り方を問うもうひとつの視点が前面に出てきます。政権を批判する記事を書いた新聞記者が「竹槍事件」の懲罰として軍に召集されるというエピソードで、なんと記者一人のために250人が一緒に戦地に送られるという、政治の力が個人をどこまで追い詰めるのかが描かれていきます。特攻要員となった若者のひとりが、「戦争が始まった時にはマスコミも一緒になって盛り上げたのに、負け始めると全部東条のせいにするのか」と記者に向かって声を荒らげる場面は印象的でした。マスコミが戦争をどう伝えてきたのか、あるいはどう加担してきたのかという問いがそこにありました。あの場面だけでも、報道の責任というものをもっと掘り下げても面白かったのではと感じました。

 ただし、特撮シーンについてはやや物足りなさがありました。過去の戦争映画の映像を使用したような場面もあり、迫力という点では新鮮味は少なかったです。また、映画全体が高官たちの会議シーンを中心に進行していくため、物語としての流れは少し硬く、一般的な娯楽作品のように主人公をひとりに定めて感情移入するという構造ではありません。歴史に興味がある人間としては、一つひとつの台詞や人物の立ち位置を追っていくのが楽しかったですが、登場人物の多さやストーリーの複雑さもあって、予備知識がないと流れがつかみにくいかもしれません。

 戦争と政治、報道、それぞれの立場で生きる人間たちの姿が描かれ、全体としては骨太な政治劇という印象でした。感情ではなく、構造と歴史を描こうという意志を感じるつくりになっていて、見応えのある作品だったと思います。

☆☆☆

鑑賞日: 2011/09/09 DVD  2019/07/28 DVD

監督堀川弘通 
脚本笠原良三 
出演中村又五郎 
小林桂樹 
中谷一郎 
垂水悟郎 
睦五郎 
冨田浩太郎 
森幹太 
石山健二郎 
玉川伊佐男 
藤岡重慶 
青木義朗 
三船敏郎 

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