映画【現代任侠史】感想(ネタバレ):健さんの静と動が交差する、奇妙に熱い恋と義理の物語

gendai
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●こんなお話

 恋と抗争、ふたつの物語が交錯するヤクザの話。

●感想

 銀座で寿司店「寿し銀」を営む島谷良一は、かつて松田組の若頭として次期組長を期待された男だった。しかし母の死をきっかけに極道の世界から身を引き、堅気として穏やかな暮らしを送っていた。

 良一が去った後、松田組は先代の実子・松田初治が二代目を継ぎ、若頭の中川や分家の船岡らが組を支えていた。一方で暴力団社会は大きく変わり始め、昔ながらの縄張り争いではなく、利権を優先する巨大組織同士の時代へ移り変わっていく。

 関西最大勢力の永井組若頭・栗田光男は、競馬や競輪のノミ行為をめぐる抗争を終わらせるため、東西の暴力団による大同団結を提案する。しかし松田初治は、それが永井組による関東進出の足掛かりだと見抜き、協定への参加を拒否する。

 その決断によって松田組は各組織から孤立し、関口組や永井組は松田組への圧力を強めていく。組員への襲撃や利権の横取りが相次ぎ、松田組は徐々に追い詰められていく。

 その頃、良一は雑誌記者の仁木克子と出会う。互いに惹かれ合った二人は静かな時間を重ね、良一は「物心ついてから一番幸せだ」と口にする日を過ごす。しかし、かつて世話になった松田組の仲間たちが次々と命を落としていく現実を前に、自分だけ平穏な生活を続けることに葛藤を抱くようになる。

 組織内部でも義理や人情を重んじる古い任侠の価値観は時代遅れとされ、利益を優先する新しいやり方が幅を利かせ始める。昔ながらの任侠道を信じる者たちは次第に居場所を失い、松田組の犠牲はさらに増えていく。

 やがて良一は寿司店を閉め、再び極道として生きる決意を固める。克子は必死に引き留めるものの、良一の覚悟を理解し、涙ながらに送り出す。

 良一は敵対組織の幹部たちとの決着に挑み、幹部を射殺していくが、自らも撃たれて倒れておしまい。


 冒頭から非常に強いインパクトがありました。飛行機のタラップをゆっくり降りてくる高倉健さんは着流し姿で、日本刀を手にしています。現代的な空港の風景とあまりにもかけ離れた姿に、一体どの時代の物語なのかと戸惑わされました。現実と任侠映画の世界が混ざり合ったような、不思議な空気で作品は始まります。

 良一がアメリカから持ち帰るのは、ペリリュー島で戦死した父の形見である日本刀です。その後は寿司職人として静かに暮らしていますが、梶芽衣子さん演じる雑誌記者・仁木克子との出会いによって、彼の日常に彩りが生まれていきます。互いに惹かれ合う様子は派手な演出ではなく、視線や間の取り方だけで見せていくため、大人の恋愛らしい雰囲気が漂っていました。

 競馬場で馬券を的中させる場面も印象に残ります。周囲が大騒ぎする中でも、良一はほとんど表情を変えません。当選金にも執着を見せず、淡々としている姿が高倉健さんらしく、独特の存在感を放っていました。

 高額配当を手にしながらも、克子とのデートは夜店を歩くだけという素朴なものです。その飾らない時間の中で、良一が「物心ついてから一番幸せだ」と語る場面は、彼がこれまでどれほど波乱の人生を歩んできたのかを静かに伝えていました。

 一方で物語は、関東と関西の暴力団による勢力争いへと進んでいきます。かつて兄弟分だった組が巨大組織に立ち向かい、仲間たちが次々と命を落としていくことで、良一も再び抗争へ身を投じていきます。

 ただ、恋愛ドラマと任侠映画という二つの要素が最後まで完全には噛み合っていないようにも感じました。恋人との関係と組織抗争がそれぞれ魅力的に描かれている反面、一本の物語として結び付くまでには至らず、やや散漫な印象を受けます。

 それでも、ゴルフ場で繰り広げられる銃撃戦や安藤昇さんの存在感、思い切りの良い展開は非常に見応えがありました。敵の本拠地への殴り込みでは、親分だけが都合よく集まっていたかと思えば、次々と子分たちが現れるなど、豪快な展開もこの作品ならではの魅力だと思います。

 そして何より圧倒されたのは俳優陣の表情です。高倉健さんをはじめ、登場人物たちは台詞以上に表情で感情を語ります。アップを多用した演出も相まって、無言の場面でさえ強烈な迫力がありました。

 石井輝男監督と橋本忍脚本という豪華な組み合わせから生まれた本作は、任侠映画でありながら恋愛や社会風刺の要素も盛り込んだ異色作です。物語のまとまりには好みが分かれる部分もありますが、俳優陣の存在感と独特の熱量に引き込まれ、観終えたあとも不思議な余韻が残る一本でした。

☆☆

鑑賞日:2012/11/14 DVD 2026/07/18 U-NEXT

監督石井輝男 
脚本橋本忍 
出演高倉健 
郷えい治 
成田三樹夫 
夏八木勲 
梶芽衣子 
中村英子 
小池朝雄 
内田朝雄 
辰巳柳太郎 
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