●こんなお話
「女優霊」のハリウッドリメイクの話
●感想
物語の冒頭、中世ヨーロッパを舞台にした悪魔や魔女にまつわる神話的な描写が挿入され、観客を一気に作品の異質な世界観へと引き込んでいきます。信仰と恐怖が結びついた時代の空気を漂わせながら、現在の物語がそこに接続されるような構成になっており、不穏な雰囲気が序盤から立ち上がっていきます。
そして現代の映画撮影現場。主人公をはじめとするスタッフたちが山奥にロケ地を設けて、一本のホラー映画の撮影を進めていくことになります。主役となる女優は精神的に不安定な状態にあり、序盤から表情はどこかうつろで、会話もどこか浮遊感があるような印象です。撮影に臨む彼女の目は虚ろで、足取りは定まらず、その時点で観客には現実と幻覚の境目が曖昧になっていく予感が漂ってきます。
この作品はいわゆる心霊や超常現象を直接的に描くタイプのホラー映画ではなく、むしろ登場人物の精神状態が歪んでいく様子を丹念に描いていく構成となっています。幽霊や怪異といった存在は形として明確に現れるというよりも、登場人物たちの精神や視覚の中でじわじわと姿を変えていくような感覚でした。特にクライマックスでは、登場人物たちの視界に広がるものがどんどん異常化していき、その映像の強烈さに観ている側としても疲労感が押し寄せてくるような時間となっていきました。
怖さの質としては、日本的な“静けさ”や“存在感の薄い恐怖”とは一線を画していて、むしろ視覚的、物理的な圧迫感で攻めてくるタイプの演出が中心です。たとえば、大量のハエが襲いかかってくる描写などもありましたが、個人的にはそのビジュアルにあまり魅力を感じることができず、驚かされるというよりも淡々と見てしまいました。
撮影に関わるスタッフたちは次々と不幸に見舞われていきますが、恐怖シーンそのものには“がっつりとした怖さ”が感じられず、その点は少し物足りなさも感じました。ただし終盤、精神が崩壊したスタッフたちが互いに攻撃を始めるというパートがあり、その混乱が一気に爆発する瞬間には画面に力があって、もう少し長く見ていたくなるほどの吸引力があったように思います。あそこがもっと描かれていたら、作品全体の印象も変わっていたかもしれません。
過去の名作ホラー『女優霊』のリメイク的な位置づけで語られることもありますが、本作はまったく異なる路線を歩んでいる作品で、比較そのものに意味がないことは理解しております。とはいえ、改めて『女優霊』という作品がホラー映画として非常に完成度が高かったのだと再確認できる時間となったのも、またこの映画を観た意義のひとつだと思いました。
奇妙なテンションで描かれていく幻想的な映像世界、曖昧な現実感、錯綜する記憶や恐怖の感覚。そうしたものに身を委ねたい方には、独特な時間が流れる一本だったのではないかと思います。
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監督 | フルーツ・チャン |
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脚本 | ブライアン・コックス |
高橋洋 | |
原案 | 中田秀夫 |
出演 | リシャッド・ストゥリック |
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ヘンリー・トーマス | |
カルメン・チャップリン | |
ケビン・コリガン |
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