●こんなお話
人間だけではない世界のNYで魔法の杖を巡って戦う警官たちの話。
●感想
街の空気や雑多な喧騒の中で、ギャングたちと警官たちが火花を散らす。そんなデヴィッド・エアー監督らしい世界観が、今回の作品でもしっかりと描かれていて、制服警官と犯罪者の境界線があいまいになっていくようなヒリついた空気感が、序盤からずっと続いていました。人間とオーク、エルフが共存している社会という、いわゆるハイファンタジーの設定を、ロサンゼルスの裏通りに落とし込んだような、ちょっと変わった舞台設定になっていて、現実と非現実のバランスが独特の空気を作っていました。
物語は、警官である主人公とその相棒が、とある不思議な力を秘めた“ワンド”という魔法の杖を巡って、街中のさまざまな勢力から追われることになります。ギャングたちはその力を手に入れようと暴走し、裏社会の勢力が一斉に主人公たちの行く手を阻もうとしてくる展開は、『ウォリアーズ』や『ガントレット』といった作品を思わせる逃走劇のスリルがあり、作品全体の緊張感を高めていました。
そして主人公たちを追う存在として登場するエルフの刺客たちの身のこなしも印象的でした。スピード感のある回転や流れるような動きが目を引き、ただ強いというだけではない、神秘的な怖さをまとっていて、アクションシーンのアクセントとして効果的だったと思います。光る刃や無駄のない動きに説得力があり、画面の緊張を維持していました。
ただ一方で、物語のファンタジー部分に関しては、固有名詞の多さと背景設定の複雑さが、やや観る者を置き去りにする部分もありました。「ダーク・ロード」や「インファーニ」などといった用語が飛び交う中で、それぞれの勢力や歴史が語られていくのですが、それが本筋にどう関わるのかがすぐに理解できるわけではなく、情報を処理しながら観なければならない構成は少しハードルが高かった印象です。
加えて、バディムービーとしての魅力ももう一歩深く描いてほしかったと感じました。オーク初の警官として、差別と孤立の中で生きる相棒という設定は非常に興味深いものでしたが、そのテーマが作品全体を動かすほどには機能していなかったように思います。人間とオークという異なる種族のあいだで絆が生まれていく過程がもっと繊細に描かれていれば、ラストに向かうまでの感情の積み重ねに深みが出たかもしれません。
また、エルフの捜査官が長い時間をかけて登場しているわりには、物語の中心に深く絡むわけでもなく、描写の比重に対して役割が限定的だったのは少しもったいなかったです。複数の登場人物を丁寧に描こうとした結果、少し散漫に感じる部分もありました。
とはいえ、制服警官とギャングのリアルなやり取りや街の表情、そしてそこにファンタジーの要素が差し込まれている独特の空気感には引き込まれるものがありました。警察映画としての強度と、SFファンタジーの非日常性が出会う中で、新しいジャンルを模索しようとする意欲が見える作品でもあったと思います。画面に映る夜の街並みや車のヘッドライトが照らすアスファルトの質感も印象に残るもので、デヴィッド・エアー監督らしい世界観を存分に楽しむことができました。
☆☆☆
鑑賞日:2021/07/26 NETFLIX
監督 | デヴィッド・エアー |
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脚本 | マックス・ランディス |
出演 | ウィル・スミス |
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ジョエル・エドガートン | |
ノオミ・ラパス | |
エドガー・ラミレス | |
ルーシー・フライ | |
アイク・バリンホルツ |