映画【十兵衛暗殺剣】感想(ネタバレ):剣豪たちの誇りと執念がぶつかる一騎打ち

Yagyu bugeicho: Jubei Ansatsu-ken
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●こんなお話

 将軍家指南役の柳生一族に我こそは正統な新陰流の継承者だと挑発して挑んでくる剣客と柳生十兵衛の戦いの話。 

●感想

 剣の道を極めた者たちが、それぞれの信念を胸にぶつかり合う物語。主人公は柳生十兵衛。剣豪として名を馳せ、冷静沈着にして大胆な立ち回りを見せる。その対峙相手となるのが、大友柳太朗さん演じる柳生家に恨みを持つ男。物語は、陰謀と復讐が交錯する中で、両者が互いに近づき、最後には命を賭けた一騎打ちへと収束していく。

 大友さん演じるカタキ役は、柳生家への恨みを剥き出しにして突き進む。柳生の門弟を次々と手にかけていく冷酷な行動には容赦がなく、その狂気が画面を支配する。その一方で、湖に潜む水上の集団・湖賊の力を借りて戦いを進めるという場面もあり、正々堂々とは言いがたい策を弄する姿にはどこか愛嬌のような不思議な魅力も感じられる。

 十兵衛は、そんな相手の策を知りながらも、なぜか正面から挑む道を選ぶ。罠であるとわかっていながら、小舟に仲間全員で乗り込み、案の定湖上で襲撃を受けてしまう。ここでの虐殺劇は迫力があり、壮絶な場面ではあるものの、なぜもう少し工夫を凝らさなかったのかという気持ちも残る展開だった。戦略というよりも、誇りと覚悟に身を任せた行動だったのかもしれない。

 仲間をすべて失い、十兵衛は孤独な戦いへと進んでいく。湖岸の林の中や、小舟を使っての隠密な動き、水辺でのゲリラ的な攻撃など、ひとりきりの抵抗が続いていく。そこから先の展開は、観る者の呼吸も止まりそうになるような緊張感が漂っていた。

 そして物語の最後には、ついに両者が対峙する場面が用意されている。泥にまみれ、水を浴び、髪も着物も乱れた状態での死闘。もはやどちらが正義か悪かという問題ではなく、剣を握る者同士として、ただ技と意地をぶつけ合う姿が描かれていく。この殺陣の迫力は圧巻で、技と体力の限界をさらけ出した戦いは強く印象に残る場面でした。

 映像については、特に湖の上での撮影や水中の描写が見どころで、当時の技術であれだけの臨場感ある映像を撮っていることに素直に感心しました。湖の表情や空の明るさの変化、水面の揺らぎなどが、戦いの場を幻想的にも見せていて、風景の美しさが物語の緊張感をさらに引き立てていたように思います。

 また、カタキ役の人物造形が非常に魅力的で、敵ながら目を引く存在感を放っており、物語の牽引力となっていました。彼が何を思い、どう動くのかを見守っているうちに、主人公側よりもその動向に引き込まれる瞬間が何度もありました。

 主人公の行動には少し疑問を抱く場面もありましたが、それでも最後に1人になってからの反撃や、最終決戦の激しさには心を動かされました。ストーリーよりも、役者たちの魅力と体当たりの演技、そして剣戟の見せ場を楽しむ作品として、十分に力のある映画だったと思います。

☆☆☆

観賞日: 2018/11/24 DVD

監督倉田準二 
脚色高田宏治 
原作紙屋五平 
出演近衛十四郎 
香川良介 
林真一郎 
北龍二 
大友柳太朗 

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