●こんなお話
オープン前のカレー屋さんで準備をする夫婦がいて、そこに大家さんとかバイトくんとがやってきて無茶苦茶言うけど、奥さんが1番無茶苦茶になっていく話。
●感想
舞台劇を原作としたこの映画は、オープン前のカレー屋さんという限られた空間の中だけで物語が展開されていく密室劇でした。セットも基本的に一室だけで、登場人物たちがその店を出たり入ったりしながら、テンポよく会話劇が進んでいきます。場所の限定された演劇的な構成が、舞台っぽさをそのまま映画に持ち込んだような作品になっていました。
序盤からまず印象に残るのは、新しくバイトの面接にやってくる男の存在。とにかく何を言ってもどこか上から目線で、空気を読まない返しをしてきて、会話の流れに微妙なズレを生み出します。そのイライラさせられる感じが逆にクセになって笑えてくるという妙な魅力がありました。他にも、奥さんのことが好きだと堂々と告白してくるストーカー気質の男が現れたりして、どんどんと無茶苦茶な人物が店に集まりはじめ、常識では測れないやりとりが続いていきます。
それらの人物たちとの会話を通して、少しずつ登場人物の素顔や過去が明かされていく構成になっており、特に物語の中心となるのは店のオーナー夫妻。最初は「常識人の夫」と「ちょっと変わった妻」という構図で描かれますが、話が進むにつれて、実はその奥さんこそが本性を隠していた存在で、夫が言っていることの方が段々とおかしく思えてくるという逆転劇になっていました。
特に奥さんが物語の後半で見せる行動は、まさに“ぶっ飛び”という言葉がぴったりで、「愛を広める」ことに目覚めたと宣言し、通行人に次々とキスをしていくという行動に出てしまいます。行動自体はまったく理解不能なのですが、ここまで突き抜けてしまうと、もはや清々しさすら感じてしまう不思議な魅力がありました。
「わたしって少し美人だし」といった、どこか自己陶酔的なセリフもあえてのギャグとして機能していて、笑いどころになっていたと思います。ただ一方で、映画として見たときに「これは結局何の話だったんだろう?」という空虚さやモヤモヤ感も残ってしまうのが正直なところでした。ストーリーに明確なゴールやテーマが見えづらく、演劇的な要素が全面に出すぎて、観る人によっては置いてきぼりにされてしまうかもしれません。
とはいえ、上映時間が70分という短さでさくっと観られる作りになっているのはよかったです。強烈な個性を放つ登場人物たちの会話劇をテンポよく楽しめる、クセのある作品でした。合う・合わないは分かれそうですが、こうした実験的な作品に出会えるのも映画の楽しさのひとつだと感じました。
☆☆☆
鑑賞日: 2016/05/08 DVD
監督 | 福原充則 |
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脚本 | 福原充則 |
出演 | 黒川芽以 |
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野間口徹 | |
今野浩喜 | |
栩原楽人 | |
川合正悟 | |
永島敏行 |
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