●こんなお話
日本軍に攻略された南京で、教会に神父さんを埋葬にしに来たアメリカ人の葬儀屋がそこに逃げてきた少女たちや娼婦さんたちが迫りくる日本軍の魔の手から何とか対応していく話。
●感想
前半は重低音の銃声や破片が舞う中での戦闘シーンが多く、まさに『プライベート・ライアン』フォロワー的なリアルな戦闘描写が迫力満点。教会での戦闘では、一人の中国兵が「ファッキンジャップ」な暴挙に出たアメリカ兵を狙撃し、何十人もの日本兵を知恵と機転で倒すという、ヒーローもののような展開になっていて思わず笑ってしまいます。爆発がスローになって色とりどりの布が舞い散る演出や、教会のステンドグラスの美しさが印象に残りました。
教会に逃げ込んだ女性たちを、酒に溺れていたアメリカ人男性が少しずつ守ろうと決意していく流れが感動的です。その中で登場する渡部篤郎さん演じる日本兵も印象的。教養ある軍人として登場しながらも、少女たちを勝利の祝賀会に呼ぶよう命じるあたり、上層部の命令には逆らえない人物として描かれていたと思います。彼がその後どうなったのか描かれないのは少し残念でした。
南京事件が背景にあるものの、140分のほとんどが教会内で進むため、歴史的な広がりは少なく、舞台を変えても成立しそうな物語になっていたのはややもったいなかったです。特に、クリスチャン・ベイル演じる主人公が酔いどれの葬儀屋ながらトラックを直したり、娼婦たちが女学生に変装するシーンは突っ込みどころも多く、男の子が女学生として参加する場面はさすがに無理があると思いました。
また、主人公と中国人ヒロインの突然のラブシーンや、「女学生たちは自分の死んだ娘と同世代だから守りたい」と語る場面は、やや説明的すぎて感情移入しにくく。
中盤で教会を抜け出し、遊郭に戻ろうとする娼婦2人が日本兵に襲われ、銃剣で殺されるシーンは本作で最も残酷だったが、彼女たちが命がけで琵琶を取りに戻る動機が弱く感じてしまいました。
それでも、娘を助けるために日本軍に協力する父親と、その行動を裏切りと責める娘の関係は、最後に主人公が「彼は立派な父親だ」と語ることでしっかりとまとめられていて感動的でした。
教会から脱出してもその先の未来は決して明るくないことが想像されるし、やや長めの140分ではあるけれど、チャン・イーモウ監督らしい映像美と、か弱い存在を守る自己犠牲の物語として、完成度の高い娯楽作品だと思いました。
☆☆☆
鑑賞日:2015/05/15 Blu-ray
監督 | チャン・イーモウ |
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脚本 | リュウ・ホン |
出演 | クリスチャン・ベイル |
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ニー・ニー | |
チャン・シンイー | |
フアン・ティアンユアン | |
ハン・シティン | |
トン・ダーウェイ | |
渡部篤郎 |