●こんなお話
夜鷹を夜な夜な惨殺する旗本たちと酔いどれ浪人たちの戦いの話。
●感想
物語の舞台となるのは、江戸の片隅にある夜鷹たちが通うめし屋。そこに集う浪人たちは、それぞれに事情を抱え、日々の生活の中で何とか心の平穏を保とうと生きている。めし屋では、常連の浪人たちが肩を寄せ合いながら、時には静かに、時には憂さを晴らすように語り合う。そのなかで、旗本たちによる理不尽な暴力や横暴が描かれていき、めし屋の客たちも否応なしに巻き込まれていくことになる。
旗本たちは己の権力を誇示するように、善良な町人や浪人たちを翻弄する存在として登場する。金の力、地位の力に物を言わせ、弱い者を踏みつけていく姿は、時代の歪みを象徴しているようでもあった。そんななか、めし屋に通う浪人たちの中に混じっているのが勝新太郎さん演じる男。どこか達観したような佇まいで、日々を流されるように生きるその姿には、力の抜けたような存在感があった。
映画の構成としては、オールスターの俳優陣が集い、それぞれが自由に芝居を繰り広げているような群像劇のスタイル。演劇界で活躍してきた役者さんたちの顔ぶれがそろい、日本映画の古典剣劇のリメイクという話題性も相まって、豪華な一作となっている。映像の随所に日本映画の伝統的な雰囲気が漂い、芝居や立ち回りにも随所に工夫が見られる。
ただ、個人的には、台詞まわしや芝居のテンポが少し気になりました。登場人物たちが静かに小声で話し続ける場面が多く、何を語っているのかがつかみにくく感じました。セリフが会話としてのやりとりよりも、独り言のように響いてしまうことがあり、観ていて少し集中力が途切れてしまうこともありました。めし屋の空気感や浪人たちの哀愁漂う生活は伝わってくるのですが、それが物語のうねりに繋がるまでの運びがやや弱かった印象です。
また、カタキ役として登場する旗本たちの描かれ方も、非常に分かりやすく、いかにも悪役という雰囲気で登場するため、物語に複雑さや深みがあまり感じられなかったのも事実です。感情の振れ幅が明快すぎることで、ドラマの余韻や揺れが感じにくくなっていたようにも思います。
勝新さんが演じる男の行動についても、前半では旗本たちにへりくだり、犬のように扱われる描写があるのですが、終盤になると急に侍らしい振る舞いを見せるようになり、その変化の背景があまり掘り下げられていなかったため、観ていて不思議な印象を受けました。どのような心の動きがあってその選択に至ったのかが明確に描かれていれば、より感情移入しやすかったのかもしれません。とはいえ、終盤の立ち回りには一瞬の美学のようなものが感じられたのも事実で、そこに重なる時代劇的な情緒には胸に迫るものがありました。
全体としては、豪華な俳優陣がそれぞれの個性を持ち寄って芝居を織り成していく構成で、日本映画の伝統的な剣劇の空気を今に伝える一作としての価値を感じました。映像のつくり、衣装、立ち回り、そして画面の中の空気感は、確かに味わい深いものがあります。物語の展開や人物描写の点では物足りなさを覚えた部分もありましたが、その空気を味わうことそのものに意味がある作品だとも感じます。懐かしさと現代的なアプローチの交差する、独特な味わいのある映画でした。
☆☆
鑑賞日: 2016/05/25 NETFLIX
監督 | 黒木和雄 |
---|---|
総監修 | マキノ雅広 |
脚本 | 笠原和夫 |
原作 | 山上伊太郎 |
出演 | 原田芳雄 |
---|---|
樋口可南子 | |
石橋蓮司 | |
杉田かおる | |
伊佐山ひろ子 | |
絵沢萠子 | |
賀川雪絵 | |
中村たつ | |
紅萬子 | |
藤崎卓也 | |
青木卓司 | |
外波山文明 | |
津村鷹志 | |
天本英世 | |
水島道太郎 | |
中尾彬 | |
佐藤慶 | |
長門裕之 | |
田中邦衛 | |
勝新太郎 |
コメント