●こんなお話
メキシコの覆面レスラーの日常と謎の白い場所に閉じ込められた男の脱出劇の話。
●感想
気がつくと、主人公は真っ白な空間の中にいた。壁も床も天井もすべてが白く、現実感がまるでない。不思議なその空間には、ずらりと並んだ“天使のような存在”のボタンがあり、彼らの身体の一部を押すことでランダムにアイテムが出てくる仕組みになっている。どうやらそれらのアイテムを使って、この奇妙な空間から脱出するのが目的らしい。
最初こそ、主人公も何が何だかわからず戸惑っていたものの、次第に白い部屋のルールや仕組みを理解していき、ボタンを押したり、アイテムを活用したりしながら進んでいく。全体としてはサバイバルゲームのような雰囲気を漂わせているのだが、どこか緊張感には欠けていて、どの行動も命懸けという感じではなく、どちらかといえばコントのようなやり取りが続いていく。
場面ごとに変わるアイテムの扱いや、登場する謎のキャラクターたちとのやり取りがひとつひとつ丁寧に描かれているのですが、そのテンポがとてもゆったりしているため、人によっては冗長に感じられるかもしれません。演出もどちらかというとリアクション主体で、視覚的な面白さよりも空気感や間で笑いを取るようなスタイル。主人公が「さっきのボタンの位置がわからない」と困っていたり、「何度も同じ失敗を繰り返す」様子を見せられる場面も多く、何らかの工夫がほしいなと感じる部分もありました。たとえば、目印をつけるとか、簡単な記録を残すような手段があってもよかったかもしれません。
観客が「あそこにあったのに」と覚えている状況で、主人公だけが何度も同じ壁にぶつかっていると、どうしても気持ちが作品とズレていくこともありました。そのため、終始“どの視点で見ればいいのか”が少し曖昧なまま時間が過ぎていく印象を受けました。
中盤から後半にかけては、日本とは異なる土地、メキシコでの描写が長く続きます。ローカルな街の空気や、そこに暮らす人々の日常が丹念に映されていくのですが、こちらもやや長尺で、何を描いているのかがすぐには見えてこない構成でした。とはいえ、その風景や人々の佇まいを通じて、物語全体に異国の匂いがしっかりと染み込み、結果的には作品の独自性を高めていたように思います。
特に印象的だったのは、そのメキシコのパートにおける撮影の美しさです。日本のスタジオセットで展開される白い部屋とはまったく異なるカメラワークで、現地の自然光や空気をそのまま閉じ込めたような映像の連なりがありました。松本人志監督自身が直接手がけたシーンではない可能性もあるのですが、その分、外部の視点が映画に入り込んだような新鮮さがあり、異質でありながらも効果的な画作りだったと感じております。
全体としては、シニカルな笑いや不可解な演出、そして最後に繋がる“ある種のメッセージ”をどう受け取るかによって、鑑賞後の印象が大きく変わってくる作品だと思います。シュールな世界観の中に、人生や選択、自由と拘束といったテーマが潜んでいるのかもしれません。形式にとらわれず、映画という枠を遊ぶような感覚を楽しめる方には、独自の体験が待っている一作です。
☆☆
鑑賞日: 2016/11/04 NETFLIX
監督 | 松本人志 |
---|---|
脚本 | 松本人志 |
高須光聖 |
出演 | 松本人志 |
---|
コメント