映画【わたしに会うまでの1600キロ】感想(ネタバレ):歩いて向き合う心の旅、過去と記憶が重なる静かな道のり

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●こんなお話

 メキシコからカナダまでの1600キロの自然歩道を踏破しようとする女性が今までの人生を回想しながら、サバイバルしていく話。

●感想

 何の準備もないまま、ひとりでアメリカの過酷な自然の中へと踏み出していく主人公の姿から物語は始まる。地図を見ながら、不慣れなテントを張り、食料に困りながらも、山を越え、川を越え、旅の歩みを止めない。道中では、善意で食事を分けてくれる人や、励ましの言葉をかけてくれる旅人に出会いながら、どうにか前へと進んでいく。

 なぜ彼女はこんな無謀な旅に出たのか。その理由は、旅の途中で挿入される回想シーンで明かされていく。幼いころの母との穏やかな日々、母の病、そして突然の別れ。愛情と喪失の記憶が交錯する中で、彼女の人生は大きく歪んでいく。麻薬に溺れ、自暴自棄な日々を過ごし、気づけば誰の信頼も得られない生活に身を置いていた。そんな自分をもう一度見つめ直すために、この旅に出たのだと、静かにわかってくる構成が見事でした。

 回想と現在の旅が自然に繋がる編集のリズムは非常に心地よく、画面を追いかけているだけで彼女の内面に少しずつ近づいていくような感覚を覚えました。旅のサバイバル描写も、食料や水の不足、トレッキング用具の不備、怪しげな男との遭遇など、常にどこかに危うさが漂っていて、緊張感のある映像が続いていたように思います。

 個人的には、この手の「自分を見つめ直すための旅」を描いた映画は、やや共感しづらく感じるところも。もう少し下調べや装備の準備があってもよかったのではと最初の段階で思ってしまったこともありましたし、主人公の動機についても、もちろん辛い経験ではあるものの、世界にはより厳しい状況の中で日々を生き抜いている人々もいると思ってしまうところがあって、少し距離を感じた部分もありました。

 とはいえ、アメリカにも巡礼のような旅があるのだということを知ることができ、その文化的背景に触れられる点では非常に興味深かったです。個人の罪や痛みを背負って自然の中で自らと向き合う時間を持つという行為は、人それぞれの癒しの形として確かに存在していて、彼女の姿からもそれを感じ取ることができました。苦しい中でも少しずつ再生への道を歩もうとする主人公の姿に、静かに胸を打たれる瞬間がいくつもありました。

☆☆☆

鑑賞日: 2015/09/06 109シネマズ川崎

監督ジャン=マルク・ヴァレ 
脚本ニック・ホーンビィ 
原作シェリル・ストレイド
出演リース・ウィザースプーン 
ローラ・ダーン 
ミヒル・ホイスマン 
ダブル・アール・ブラウン 
ギャビー・ホフマン 
ブライアン・ヴァン・ホルト 

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