映画【影の軍団 服部半蔵】感想(ネタバレ):忍者たちが駆ける幻想世界、異色の時代劇エンターテインメント

kagenogundan
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●こんなお話

 3代将軍家光亡き後の権力争いの忍者たちの話。

●感想

 影が濃く落ちたセットの中、ぎらついた照明の下で多くの忍者たちが一画面に収まりながら縦横無尽に動き回る。まるで舞台劇のような視覚的インパクトが序盤から強く印象に残る映画でした。特に際立っていたのが、緒形拳さん演じる甲賀忍者の登場シーンで、真っ黒な石膏のような殻を破って現れ、「りん・ぴょう・とう・しゃ・かい・じん・れつ・ざい・ぜん」と唱える姿には度肝を抜かれました。まるで呪術めいた儀式のような所作が神秘的で、その登場だけで観る者の目を惹きつけます。

 このキャラクターがまた非常に強く、僧侶に扮しては催眠術のような術で相手を操る無敵の存在として描かれています。時代劇というジャンルでありながら、どこか超常的な存在感を放つ悪役の造形には独特の魅力がありました。こうしたキャラクターの立て方には、娯楽映画としての大胆さが感じられます。

 物語の軸となるのは、幕府に仕える忍者たちによる将軍警護の任務ですが、その中でも主人公格となる甲賀忍者が「上の半蔵」と「下の半蔵」として二人登場するというのも特徴的です。野心のない生活者のような半蔵と、幕府との関係を利用して出世を図り、服部家の再興を目指す半蔵という対照的な二人の生き方が、時代に揺れる忍者像として描かれていたのが印象的でした。

 戦闘のシーンにおいては、甲賀忍者たちがアメリカンフットボールのフォーメーションのような陣形を組んで戦うというユニークな演出もあり、ヘルメットのような頭部防具まで身につけて挑む姿は、一種のパフォーマンスのようでもあります。なぜ忍者たちがアメフトのような陣形を採るのか、その戦術的意図を考えながら観るのもまた一興ではありますが、まるで禅問答のような感覚にもなり、不思議な魅力を放っていました。

 ただ、戦闘が進むにつれて登場人物全員がほぼ同じ黒装束をまとっているため、敵味方の判別が非常に難しくなっていきます。特にクライマックスの城内での乱戦では、誰が誰と戦っているのか、どちらが優勢なのかが視覚的に把握しづらく、物語としての盛り上がりに少し欠けてしまう印象もありました。とはいえ、セットのスケール感や構図の大胆さには感心いたしました。

 終盤には、将軍が誘拐され、その救出作戦として前夜に梁を外しておき、城全体を崩壊させるという大掛かりな仕掛けも登場します。あまりにも大胆な作戦で、フィクションならではの飛躍を感じながらも、その無茶な作戦に込められた気概のようなものにはある種の熱量も感じました。

 ただ、個人的に驚いたのは、主人公が甲賀の棟梁の娘を無理やりに自分のものとしてしまい、それを「俺の妻だ」と言ってしまう場面です。時代劇に描かれる倫理観の違いとはいえ、観ていて一瞬思考が止まってしまうほどの展開でした。さらに、その女性が自らのお腹を岩に打ち付けるという行動にも、言葉を失うような衝撃がありました。こうした描写については、時代背景を理解しつつも、現代の視点で捉えたときに感じる違和感も少なからずあったかと思います。

 全体を通して、ストーリーそのものに緊張感を持続させる工夫は少なかったように感じましたが、その分、個々のビジュアルの強さや設定の独創性においては、なかなか他に類を見ない作品となっていたのではないかと思います。忍者という題材を通して、様々な映像的な挑戦が試みられていたように感じますし、時代劇という枠を飛び越えた表現に触れる面白さもありました。

☆☆

鑑賞日:2021/01/22 U-NEXT

監督工藤栄一 
脚本高田宏治 
志村正浩 
山田隆之 
出演西郷輝彦 
渡瀬恒彦 
山村聡 
三浦洋一 
成田三樹夫 
緒形拳 
森下愛子 
原田エミ 
蟹江敬三 
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