●こんなお話
サザエさんが就職したり恋愛をしたりする話。
●感想
サザエさんは高校を卒業し、家事を手伝いながら、弟のカツオや妹のワカメ、そしてしっかり者の両親とともに、東京で落ち着いた毎日を送っている。ある日、新聞社に勤める親戚のノリスケが下宿を願い出て、一家はその頼みを快く引き受ける。しかし、ノリスケは想像を超えるほどの豪快な食欲を見せ、磯野家は新たな賑やかさに包まれることになる。
サザエは自分も社会に出て働きたいという思いを抱き、雑誌「女性クラブ」への就職が決まる。ところが当日、なぜか会社を間違えて山高商事へ入り込んでしまい、そこでフグ田マスオと出会う。彼の温かな対応にサザエは次第に心を惹かれる。最初に任された仕事は作家・神田大六の原稿を受け取りに行くことだったが、デパートで神田への手土産を買う途中に騒ぎを起こして、サザエは大きな誤解をしたまま神田の家に原稿を取りに来ても逃げ出してしまう。その結果、出版社を退職することになり、失意の中でマスオの紹介により大木探偵事務所へ就職することになる。
探偵事務所では厳しい面接を経て採用されるが、すぐにノリスケとミチコの素行調査が舞い込み、サザエが自ら担当することになる。変装をしたりして尾行調査を続けるうちに、ノリスケとミチコが互いに惹かれ合っていることに気づき、サザエは二人の仲を応援する。やがて二人は結婚へと進み、磯野家にも祝福の空気が満ちていく。
その一方で、サザエの胸にはマスオへの淡い思いが芽生え続けていた。ミチコの後押しもあり、サザエはクリスマスパーティーへの招待状をマスオに送る。クリスマスの夜、サザエは少し背伸びをして“女性らしく”振る舞おうと準備し、マスオも仕事の都合で遅れながらも会場へ駆けつける。マスオはサザエにブローチをプレゼントし、二人はゆっくりと手を取り合いながらクリスマスのひと時を分かち合う。家族と友人たちに囲まれた温かな雰囲気の中で、みんなで歌って踊って、サザエの恋心は静かに育っていき、柔らかな余韻を残して物語はおしまい。
江利チエミさんが演じるサザエさんは伸びやかで魅力があり、ほかのキャストの皆さんも生き生きとしていて、画面越しに楽しさが伝わってきました。作品全体に明るい空気が漂っており、その軽やかさが観ている側にも心地よく響いてきます。
昭和の街並みや家庭の雰囲気、職場の様子など、当時の暮らしが細やかに映し出されている点も興味深く、古い映画としての味わいが色濃く感じられました。家族の会話や住まいの空気などは現代とはまた違った温度感があり、画面に映る日常だけでも見応えがあります。
物語自体は大きな事件が起きるわけでもなく、90分ほどの時間で軽やかに流れていくため、肩の力を抜いて楽しめる作品になっていると思いました。サザエとマスオの距離が少しずつ縮まっていく過程も微笑ましく、昭和の映画らしい柔らかさの中に、丁寧に描かれた人間味を感じることができました。
☆☆☆
2026/11/20 U-NEXT

