映画【フロントライン】感想(ネタバレ):クルーズ船集団感染の現場を描く医療ドラマ

Frontline
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●こんなお話

 新型コロナウィルス発生当時に対応にあたる人たちの話。

●感想

 結城英晴はDMATの指揮官として、横浜港に停泊していた豪華客船ダイヤモンド・プリンセス号への急な出動を命じられる。船内では、香港で下船した乗客の感染判明をきっかけに発熱者が増え、これまでに例のない大規模なクルーズ船内感染への対応が求められていた。結城は感染症分野の専門家ではないため一度は躊躇するものの、行政側の要請と現場の切迫状況を目の当たりにし、最前線を率いる役目を受け入れる。

 現場では、実働部隊をまとめる仙道、家族と別れて残るDMAT隊員の真田、そして船内クルーの羽鳥らと合流し、様々な困難が次々と立ちはだかる。外国の乗客に英語での説明が求められる場面も多く、乗客を検査する体制も十分に整わない。さらに搬送先となる隔離病床は限られ、結城たちは誰を優先的に搬送するかという厳しい判断に頭を悩ませる。病院の受け入れ枠の確保や救急搬送の調整も思うように進まず、現場は常に綱渡りのような状態が続く。

 難病の母親を支える子どもや、不安を抱える外国人乗客など、具体的な事情を抱えた人々が次々と現れ、言葉や文化の壁に戸惑いながらも、チームはひとりひとりの生活や心情に寄り添おうと奔走する。船内で働き続けるクルーの羽鳥も、不安を抱える乗客の世話に当たり、役割を超えた献身を見せる。

 一方で、外部では過熱する報道や無責任な言動を繰り返す人々が混乱を増幅し、現場にさらなる重圧を与えていく。政府や行政側との間には、船内封鎖を続け感染拡大を防ぎたい思惑と、目の前の患者を一人でも救いたいと願う医療者の使命がぶつかり合い、結城はそのはざまで最適な判断を探り続ける。

 検査結果が判明するたびに搬送計画は何度も書き換えられ、医療機関は限界に近づきながらも新設病院への受け入れが始まり、ついに全員の下船が進む。長く混乱が続いた状況は、一人ひとりの努力と連携の積み重ねによって決着に向かっていく。

 日本社会では科学的根拠よりも空気や雰囲気が優先され、そこからいじめや差別のような状況が自然に生まれてしまうことがあるという現実が見られました。過度に反応する人々や、発言に責任を持たない声が状況を混乱させていく様子が描かれており、その迷惑を受ける現場の苦労が伝わってきました。

 その一方で、現場の医療者やクルーたちが静かに誠実に働く姿を描いていた点は非常に胸に残りました。極限に近い状況でも、誰かを救いたいという気持ちで動き続ける人々を見られたことに、深い敬意を抱きます。

 ただ、作品としての演出に関しては見せ場が少なく、映像的な盛り上がりに欠ける部分もありました。序盤の緊張感は強いのですが、徐々に物語が平坦になっていき、勢いが保てていない印象を受けました。現場の地道な作業を描く題材である以上仕方ない部分もありますが、映像としてのメリハリがやや弱めに感じられました。

 それでも、混乱の中で働く人々の姿を真っ向から描いた点には価値があり、当時の空気を思い返しながら観ることで、より深い理解につながる作品だと感じました。

☆☆☆

鑑賞日:2025/11/17 Amazonプライム・ビデオ

監督関根光才 
脚本増本淳 
出演小栗旬 
松坂桃李 
池松壮亮 
森七菜 
桜井ユキ 
美村里江 
吹越満 
光石研 
滝藤賢一 
窪塚洋介 
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