映画【鯨が消えた入り江】感想(ネタバレ):台湾を巡る心の旅が紡ぐ作家と青年の不思議な出会い

A Balloon's Landing
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●こんなお話

 香港の人気作家が台湾に来て懇丁を目指す話。

●感想

 香港で人気作家として成功していたティエンユーは、新作小説に盗作疑惑が浮かんだことで世間の厳しい視線を浴びる。孤立感に包まれた彼は、かつて文通をしていた台湾の少年から聞かされた“鯨が消えた入り江”という印象的な文章を思い出し、その場所を探すため台湾へ向かう決意を固める。

 台湾に到着したティエンユーは、台北の喧騒の中で酒に溺れ、そのまま路上で眠り込んでしまう。そんな彼を助けたのが、ストリートで暮らしながらも不思議な純粋さをたたえた青年アシャンだった。アシャンはティエンユーを自宅に運び、何かと世話を焼きながら穏やかな距離感で彼に寄り添う。

 やがてティエンユーは、盗作疑惑に揺れる心の内と、人生の節目に浮かび上がった“鯨が消えた入り江”のことをアシャンへ率直に語る。するとアシャンはその場所を知っていると告げ、彼をそこへ案内する旅を提案する。ここから二人の不思議なロードムービーが動き出す。

 旅の途中では、自殺の名所として知られる場所で騒動に巻き込まれたり、犬の導きのように滝にたどり着いて無邪気に水とたわむれたりと、独特の体験が積み重なっていく。台湾の少年との文通の記憶が断片的に挟まれ、ティエンユーの抱えてきた過去と、アシャンが心に秘める事情が少しずつ重なりを見せていく。

 懇丁の花火大会に着いた夜、ティエンユーはアシャンに香港へ戻るというメッセージだけを残して姿を消す。再び作家としての忙しい生活に戻ったものの、彼の胸には旅の余韻とアシャンの不在が静かに残り続けていた。やがてアシャンを知る女性が現れ、彼が旅の後にたどった道が語られる。

 その後、旅の途中で出会った人物と同じ顔の人物に出会ったり、どこかアシャンと似た面差しを持つ人との邂逅が続き、ティエンユーは自分の記憶の中で旅の意味を確かめるようにして物語はおしまい。

 台湾各地を巡りながら進むロードムービーとしての魅力がしっかり描かれていて、風景の移り変わりが心地よく、旅をしているような感覚で楽しめました。二人の主人公が抱えてきた過去や秘密がゆっくりと明かされていく構成にも味わいがあり、静かな時間の中で少しずつ心が触れ合っていく過程を丁寧に見せてくれる作品だと思います。

 また、チンピラに追われる場面や突然のトラブルなど、ロードムービーとしてのエンタメ性もしっかりあり、物語の緩急が気持ちよく効いていたように感じました。

 ただ、手紙の真相や台湾の少年とアシャンの関係性がやや複雑で、気を抜いて観ていると整理が追いつかず混乱してしまう部分がありました。意図的に曖昧さを残す語り口でもあるのですが、もう少しわかりやすい繋がりが見えるとより好みの問題だと思いますが感情移入しやすかったかもしれません。

 とはいえ、台湾の風景と二人の心の距離が静かに重なっていく雰囲気は非常に魅力的で、旅の余韻のような柔らかな印象が後に残る作品でした。

☆☆☆

鑑賞日:2025/11/16 NETFLIX

監督エンジェル・テン 
監修ケビン・ツェー 
脚本エンジェル・テン 
セブン・リャン 
モモ・ン 
出演テレンス・ラウ 
フェンディ・ファン 
ジャン・ズーシュエン 
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