●こんなお話
仕事がなくなって東京に出てきてウーバーイーツで働く姿のドキュメンタリー
●感想
2020年3月。世界が少しずつ静まり返っていった頃。山梨県で暮らしていた青柳監督は、運転代行の仕事で生計を立てていた。しかし新型コロナウイルスの影響で、街は動きを止め、夜の灯りも一つ、また一つと消えていく。客は消え、収入も絶たれ、彼の生活はあっという間に不安の底へ沈んでいった。
そんなある日、彼は“新しい仕事”を見つける。自転車配達員。自転車さえあれば、スマホとアプリが仕事を運んでくる。青柳は思い切って山梨を離れ、東京へ向かう決断をする。家族は心配し、反対もした。それでも彼はペダルを踏むことを選んだ。
東京の街はかつての喧騒が嘘のように静まり返っていた。駅の構内に人の姿はなく、夜の街には風の音だけが響く。青柳はスマートフォンをハンドルに装着し、GoProでその日常を撮り始める。アプリの地図が光り、矢印が行き先を示す。マンションのエントランスを上り、雨の舗道を滑るように走る。時に配達先の暗い廊下に立ち尽くし、時に東京の夜空を見上げる。
アプリには“クエスト”という仕組みがあり、一定回数をこなすごとに報酬が上乗せされる。数字が目標となり、地図が仕事を決める。ペダルを踏むたびに、彼は「働くとは何か」「自分はどこへ向かうのか」を自問して生活していく。
やがて、雨の日にタピオカドリンクを一つ運ぶ。冷たい雨粒がヘルメットを打つ。報酬はわずか。奨学金の催促の電話が届き、東京の友人たちからは心配や同情の声。それでも彼は漕ぎ続ける。誰かの生活を支えながら、自分の存在を確かめるように。
配達先のマンションのドアの前にカメラを置き、映像を残す。映っているのはただの配達の記録であり、同時に都市の記録でもある。人の姿が少なくなった東京の路地、雨に濡れたコンクリート、遠くで鳴る電車の音。そこにあるのは、ひとりの配達員の孤独な呼吸。
誕生日の夜、青柳は誰にも祝われないまま、ひとり部屋で時間を過ごす。デリヘルを頼んでも、聞いてた金額と違ってお金だけ取られる。苦笑しながらも、彼はカメラに話しかける。その姿は哀しくもあり、どこか滑稽で、同時にとても人間的だった。
ラスト、彼は大阪から来た配達員にアドバイスを送り、国会議事堂の方角へと走っていっておしまい。
ウーバーイーツ配達員の現実を、ここまで赤裸々に描いた映画は珍しいと感じました。最初は他人の生活を覗くような感覚の面白さで見れました。アプリの画面や街の映像、スマホ越しの東京は、冷たくも美しく、まるで新しい時代の風景を見ているようでした。
ただ、後半にかけては監督が自転車を漕ぎながら独白を続ける構成が多くなり、映像的な変化が少ないため、観ていて少し集中力が途切れる場面もありました。けれど、その単調さこそが、配達員という仕事の現実を映し出しているのかもしれません。繰り返しの中で淡々と日々が過ぎていく、その時間の重みを体験できる映画でもありました。
登場する友人たちもどこか現実感が薄く、誰がどこまで本当の関係なのか曖昧なまま進んでいきます。それが逆に、この時代の“つながり”の希薄さを象徴しているようにも感じました。カメラを玄関前に置き、配達の瞬間を撮るという演出もリアルで、監督の労働そのものがそのまま作品になっている点はとても興味深かったです。
青柳監督の自転車が駆け抜ける東京の夜には、疲労と孤独。止まることのないペダルの回転音が、観終わったあとも耳の奥に残り続けます。
☆☆☆
鑑賞日:2025/11/13 U-NEXT
| 監督 | 青柳拓 |
|---|---|
| 構成 | 大澤一生 |
| プロデューサー | 大澤一生 |
| 出演 | 青柳拓 |
|---|---|
| 渡井秀彦 | |
| 丹澤梅野 | |
| 丹澤晴仁 | |
| 高野悟志 | |
| 加納土 | |
| 飯室和希 | |
| 齊藤佑紀 | |
| 林幸穂 | |
| 加藤健一郎 | |
| わん(犬) |

