●こんなお話
東京メトロの出口から出られなくなる人たちの話。
●感想
物語は満員電車の揺れる車内から始まる。主人公はスマートフォンでSNSを眺めているが、車内には赤ん坊の泣き声に苛立つ男性や母親へ向けられる罵声が響き渡り、重苦しい空気が漂っている。彼はただその場に居合わせているだけで、何もできない。さらに恋人からの電話で妊娠を告げられ、心の動揺を抱えたまま会話は電波の途切れとともに一方的に遮られてしまう。
地下鉄のホームに降り立った主人公を待っていたのは、不思議な光景だった。改札を抜けた先には白いタイルで覆われた無機質な通路が続き、出口の案内板には「8番出口」と書かれているのに、どれだけ歩いても終わりに辿り着かない。壁に貼られた紙には「異変を見逃さないこと」「異変を見つけたらすぐに引き返すこと」「異変が見つからなかったら、引き返さないこと」「そして8番出口から外に出ること」と奇妙なルールが記されていた。
最初は半信半疑ながらも彼はルールに従って歩みを進める。同じスーツ姿の男と何度もすれ違い、ポスターがかすかに動き、天井から血液のような液体が滴り落ちる。さらには後ろからついてくる「歩く男」と呼ばれる存在の気配が強まり、異変を見逃すたびに「0番出口」に戻されてしまい、何度も同じ景色を歩かされる。
やがて少年と出会い、彼の視点を通して「歩く男」となってしまう存在の過去が描かれることで、この空間の構造が少しずつ浮かび上がっていく。主人公と少年は力を合わせて出口を目指そうとするが、頭上から水が轟音とともに流れ込み、濁流にのまれる中で主人公は少年を助け、少年は出口へ向かう。そして主人公もループから解放され、再び冒頭の電車に戻っていく。泣き続ける赤ん坊、苛立つ男、恋人からの電話と、同じ光景が繰り返される中で、彼は以前よりも毅然とした態度を見せようとする。
この作品で特に印象に残ったのは、無機質な白い廊下を何度も繰り返す映像表現でした。まさにゲーム的な空間の構造が活かされており、異変を探すルールが映像と噛み合っていて面白かったです。一方で、同じ景色の繰り返しは徐々に単調さを感じさせ、主人公が切り替わるたびに集中力が途切れてしまう印象もありました。また、キャラクターの悩みが「子どもを産むか産まないか」に集約されている点は少し古風に感じられ、95分という短さにも関わらず中盤は眠気を誘う部分も。
とはいえ、ループ構造や不気味な通路の演出には強い魅力があり、異変を探す過程はホラー的な緊張感を楽しめる仕上がりでした。都市生活の不安や人間関係の息苦しさといったテーマが背景に重ねられているのも印象的で、不思議な余韻を残す作品だったと感じました。
☆☆
鑑賞日:2025/09/06 イオンシネマ座間
監督 | 川村元気 |
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脚本 | 平瀬謙太朗 |
川村元気 | |
脚本協力 | 二宮和也 |
原作 | KOTAKE CREATE |
出演 | 二宮和也 |
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河内大和 | |
浅沼成 | |
花瀬琴音 | |
小松菜奈 |