映画【選挙】感想(ネタバレ):日本の選挙という舞台と候補者のリアル

Senkyo (2007)
スポンサーリンク

●こんなお話

 川崎市の補欠選挙に出た候補者を追いかけた話。

●感想

 地方の駅前で演説する一人の男性の姿から始まります。選挙戦に立候補したばかりの新人で、政治経験もまったくないまま、自民党の地元組織や党員たちのサポートを受けながら、慣れない街頭演説に臨む姿が描かれていきます。選挙カーに乗り、通り過ぎる人々に名前を呼びかけ続けるその様子は、ある種の儀式。

 候補者の傍らには、献身的に動き回る奥様の姿もあり、共に朝から晩まで地元の住宅街や商店街、駅前などを回ってひたすら挨拶を繰り返していきます。時にベテラン選挙スタッフに怒られ、時にベテラン議員に付き従いながら、少しずつ選挙という舞台に馴染んでいく様子がとても丁寧に描かれています。

 地元のお祭りや行事にも積極的に顔を出し、地域との距離を縮めていく中で、応援弁士として衆議院議員や参議院議員、さらには現職の総理大臣が訪れる場面もあり、選挙戦の空気が一気に熱を帯びていくのが感じられます。

 印象的なのは、選挙の舞台裏にあるさまざまな“型”の数々です。何秒に一回は候補者の名前を呼ぶようにと指示が飛び、お辞儀の角度やスピード、握手のタイミングまで細かくレクチャーされ、さらには「妻と呼ぶな、家内と呼べ」といった昔ながらの言葉遣いまでもが重要視されている様子に、観ていて驚かされる場面が何度もありました。

 この作品では、政策や理念ではなく、候補者自身が“どう振る舞うか”ということに多くの時間が割かれており、それが逆に日本の選挙の現実を浮き彫りにしていたように感じます。候補者は地域の人々と真摯に向き合おうとしながらも、次第に形式化された選挙活動の枠組みに取り込まれていきます。

 120分間、選挙カーから響く候補者の名前の連呼と街頭スピーチが繰り返され、観ている側としては途中でふとと意識が薄れていく瞬間もありました。しかし、それもまた現実の選挙戦を忠実に再現した結果の“体験”であり、そこに意図的な演出の力を感じました。

 全体としては、滑稽なコメディとして見ながら、日本の選挙の現場が持つ独特の空気と、それに巻き込まれていく人々の姿がリアルに描かれていて、鑑賞後にはどこかほろ苦さのようなものが残ります。笑いながらも失望絶望しながらも「これが今の選挙なのか」と、自然と自分自身の中に問いが芽生えるような作品だったと思います。

☆☆☆

鑑賞日:2025/07/18 Amazonプライム・ビデオ

監督想田和弘 
撮影想田和弘 
編集想田和弘 
出演山内和彦 
山内さゆり 
小泉純一郎 
持田文男 
山際大志郎 
矢沢博孝 
浅野文直 
石田康博 
川口順子 
橋本聖子 
荻原健司 

タイトルとURLをコピーしました