映画【福田村事件】感想(ネタバレ):関東大震災後の虐殺を描いた作品

SEPTEMBER1923
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●こんなお話

 関東大震災後に千葉県で四国の行商人が殺される事件を描いた話。

●感想

 故郷の千葉県福田村に帰ってくる夫婦の物語は、シベリアで戦死した未亡人とともに歩む運命が描かれています。駅で村長や遺族、新聞記者が出迎え、「名誉の戦死」として記事にされるという、戦争で命を落とした人々への敬意や、故郷への帰還の喜びが感じられるシーンが印象的です。村長と在郷軍人会の分会長が同級生であり、彼らの思想や信条の違いが明確に浮かび上がる描写は、時代背景の重さを感じさせます。

 一方、四国から薬売りの行商団一行が旅立つシーンでは、若者のひとりが故郷で好きな女性に見送られる中、貧しい人々に薬を売りながら進む姿が描かれ、時代の厳しさと人々の温かさを両立させています。福田村に到着した主人公は、慣れない農業に挑戦する中で、村長から教員としてスカウトされるものの、やる気のない素振りで周囲を和ませます。また、船頭が登場し、未亡人と噂になるなど、登場人物それぞれの個性が際立っていました。

 若手の新聞記者は、真実を書きたいという意志を持ちながらも、部長から「国の意向を反映し、最後に朝鮮人疑惑の一文を書け」という無理な指示を受けるなど、現代の報道の在り方にも疑問を呈されます。福田村では、父親と奥さんの過去に疑いを持つ男や、奥さん自身が家に居続けるか出るか悩む姿、さらに船頭を誘惑するシーンなど、複雑な人間模様が展開されます。

 やがて関東大震災が起こり、日本人が酷いことをしたと囁かれる噂が広がる中、船頭と自分の妻が一緒に行為をしている現場を目撃した主人公の心は乱れ、何も言えずにいる。未亡人はその船頭に激怒し、行商人たちが船を渡ろうと交渉する場面で村人たちが集結、やがてひとりが殺されたことが引き金となり、村全体が一斉に襲撃し、行商団が惨殺される混乱が発生。しかし、後に行商団が日本人であったことが明らかになり、皆が茫然とする中で、生き残った行商団は故郷に帰り、恋人が待っている場面で物語はおしまい。

 また、主人公自身は4年前に朝鮮で教会にて日本軍の虐殺を目撃したことから性的不能に陥り、奥さんは満足せず船頭に身体を許すという複雑な家族関係や、父親が奥さんとともに子どもを産んだ疑惑など、戦争の悲劇や人間のエモーションが交錯するエピソードも描かれています。さらに、現代的な視点で「書かなければならない」という記者の使命感、そしてクライマックスでは、行商団のリーダーが「朝鮮人だったら殺してもいいのか」と叫ぶ台詞が飛び出すなど、斬新ながらも重苦しいテーマが提示されます。

 全体として、130分という尺の中に実際の虐殺事件を彷彿とさせる力作が詰め込まれていますが、展開がやや散漫で、期待していた以上に物語の核心が不十分に感じられたため、個人的には残念な印象でした。しかし、どんなに辛い現実も描かれつつ、人々の生きる姿や痛み、そして希望が表現されている点は必見で、戦争の記憶と人間の複雑な感情が静かに蘇る作品だと思います。

☆☆☆

鑑賞日:2023/10/01 イオンシネマ座間

監督森達也 
脚本佐伯俊道 
井上淳一 
荒井晴彦 
出演井浦新 
田中麗奈 
永山瑛太 
東出昌大 
コムアイ 
木竜麻生 
松浦祐也 
向里祐香 
杉田雷麟 
カトウシンスケ 
ピエール瀧 
水道橋博士 
豊原功補 
柄本明 
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