●こんなお話
銀行強盗した兄弟が救急車を強奪して逃走する話。
●感想
銀行を襲った男たちは、金を手にした直後、すぐさま警察の包囲に気づいてその場を離れようとする。用意していた逃走車は見つからず、仕方なく近くに停まっていた救急車を奪ってそのまま走り出す。逃走の手段として、警察の目をかいくぐるには最適な選択のように思えたが、すぐに追跡されてしまい、車内にGPSがあることが発覚。焦って機器を破壊していた彼らだったが、後部スペースには重体の患者と救命士が同乗していることに気づき、驚きとともに状況が複雑になっていく。
人質として使おうとする兄に対し、弟は目の前で命を落としかけている患者を何とか助けたいと懇願する。兄は逃げ切ることを最優先と考え、病人の命に構う余裕はないという姿勢を崩さない。一方で弟はどうにか医療行為を続けようと、救命士の指示を受けながら処置に手を貸していく。逃走中にもトラブルは絶えず、別の車への乗り換えを試みるものの、準備していたはずの車がなくなっていたり、母親から電話がかかってきたりと、思うようには進まない。
命の危機にある患者に対しては、心臓に直接注射を打つ処置が施され、応急的に蘇生を試みる場面も描かれる。その後、森の中に患者と救命士を残して去ろうとする兄に対し、弟は酸素が足りないと聞き戻る決意を固める。兄の制止を振り切り、銃を向けられながらもハンドルを切って車を暴走させ、事故を起こしてまで再び森へ戻る。弟の必死の行動が印象的。
その後も救急車での逃走劇は続き、兄は銃で弟を制圧しようとし、弟は逆に兄を押さえ込み、再びボロボロの救急車に患者を乗せて出発。無線を通じて警察に交渉を持ちかけ、人質を解放する代わりに見逃してくれと懇願する。しかし指定された病院とは別の方向へ進み、別の病院へと向かおうとしたところ、パトカーと接触してしまい警察に動きを悟られる。
最後には、救急車の扉から患者が落ちそうになり、兄弟の間で意見の食い違いが起こり、互いに銃を向けあう形に。その直後、兄が警察の銃弾に倒れ、弟はストレッチャーで運ばれて物語は終わる。
物語の冒頭では、銀行に入っていくシーンから救急車で逃走するまでの一連を、長回しで見せてくる演出がとても効果的だったと思います。緊張感のあるテンポで一気に観客を物語の中へ引き込んでくれて、冒頭数分の段階で物語の勢いがしっかりと掴めた印象です。
序盤では、兄が弟を引っ張っていくような構図が描かれていて、行動力のある兄と、それに追随する弟という関係が見て取れるのですが、救急車の中に重体の患者がいると知った瞬間から、ふたりの関係性が揺らいでいきます。兄は逃げ切ることに執着し、弟は目前の命を救おうとする。ふたりの心の距離が少しずつ変化していく流れが見えてくるところに、物語の軸が浮かび上がってきます。
さらに兄の過去も語られていき、かつて事故で父親を亡くしたこと、その後、母親に疎まれるようになった経験が彼の行動に影を落としていることが明かされていきます。救急車内という極限状況で、銃を向けられながらも感情を吐露していく場面には、確かに物語としての深みを感じさせる意図はあったのですが、個人的にはやや緊張感が途切れてしまった印象もありました。
低予算ながらも、全編70分という短めの尺の中でテンポ良く展開し、手持ちカメラによる臨場感ある撮影や、救急車という密室を活かした空間の使い方など、工夫が随所に見られました。全体として退屈せずに最後まで観ることができ、ジャンル映画としてしっかりまとまった作品だったと思います。
☆☆☆
鑑賞日:2023/05/03 DVD
監督 | ラオリツ・モンク・ペターセン |
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脚本 | ラース・アンドレアス・ペダーセン |
出演 | トーマス・ボー・ラーセン |
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ポウ・ヘンリクセン | |
ヘレ・ファグラリズ |