映画【インベージョン】感想(ネタバレ):眠った瞬間に、すべてが変わる──スピード感あふれるSFサスペンス

The Invasion
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●こんなお話

 謎のウィルスで人間の中身が変わってしまうので息子を助けるために頑張る話。

●感想

 スペースシャトルが地球に墜落して、その破片が世界各地に降り注ぐというショッキングな出来事から物語が始まります。調査にあたった関係者のひとりが、現場の残骸に触れたことで体に異変をきたし、物語の不穏な空気がゆっくりと立ち上がっていきます。家に戻った彼は、元妻との会話を交わす中で何気ない日常を取り戻そうとしますが、世界は静かに変わり始めている。

 元妻である主人公は精神科医として働いており、患者たちの話に耳を傾けながら、日常と非日常の境目が少しずつ曖昧になっていく様子を目にしていきます。ある患者が夫の様子が変わったと話す場面でも、最初は深く気にせず受け流していましたが、次第に周囲の人間たちが感情を失ったように見える奇妙な現象に直面することになります。交通事故を目撃した際、警察官たちが事務的に主人公を事情聴取する姿もまた、人間味が欠けていてどこか異様でした。

 やがて友人たちとともに、子どもがハロウィンでもらってきた物体を調べたところ、その中に未知のウイルスが含まれていたことが明らかになります。それは人間に感染し、眠るとその人の意識が書き換えられてしまうという恐ろしいものでした。主人公の家にも、夜中に「調査」と称して何者かが侵入してこようとする事件が起き、不安と緊張感が一気に高まっていきます。

 息子を守るため、主人公は元夫のもとを訪ねますが、すでに感染していた彼から「こちら側に来るように」と説得され、逃げる最中にスライム状のウイルスを浴びてしまいます。すでに眠ることが感染の引き金になるとわかっているため、必死に睡魔と戦いながら息子が滞在している祖母の家を目指すことになります。

 この世界では感情を表に出すと感染者に気づかれてしまうため、主人公は感情を抑えた演技でふるまいながら息子と再会します。息子は唯一、感染しても発症しない特異体質を持っており、彼の体からワクチンを作ることが可能であると判明。二人で逃走を図る中、主人公は眠気に襲われ、自らの胸に注射を打ち込んで眠気を抑えるなど、ぎりぎりの状況が続きます。

 そして友人の一人が救出に現れたかと思えば、彼もまたすでに感染していたことが明らかになります。次々に襲いかかる状況の中、最終的にはヘリコプターで脱出することに成功し、息子の体をもとにワクチンが完成。人類は元の姿を取り戻すことになります。

 感情のない人間たちが静かに、しかし確実に周囲を包囲してくるような怖さが随所にあり、その不気味さがとても印象的でした。自分の知っているはずの人が、まるで知らない存在に入れ替わってしまうという不安や、個性を失って一様な存在になってしまう怖さ。それがこの作品の持つ魅力のひとつだと感じます。

 そして、感染が広がったことで争いがなくなり、平和が訪れた世界という描写も示唆に富んでいて、善悪の単純な二項対立に回収されないバランス感覚も持っていたように思います。

 全体的に非常にスピーディーに物語が展開していくため、観ていて飽きる暇もなく物語に引き込まれるのですが、その反面、少し駆け足に感じられる場面もありました。もっとひとつひとつの変化や登場人物の葛藤に深く踏み込めば、より強い印象が残ったかもしれません。

 それでもテンポのよさと、映像演出の巧みさで、エンタメとしてしっかり楽しむことができる作品でした。

☆☆☆

鑑賞日:2023/04/19 NETFLIX

監督オリヴァー・ヒルシュビーゲル 
脚本デイビッド・カジャニック 
出演ニコール・キッドマン 
ダニエル・クレイグ 
ジェレミー・ノーザム 
ジェフリー・ライト 
ジャクソン・ボンド 
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