●こんなお話
アメリカで4番目に高い建物の鉄塔に登ったら降りられなくなる話。
●感想
3人の若者がロッククライミングに挑戦する冒頭。男女のカップルともう一人の女性という構成で、山肌をよじ登っていくが、ふとした拍子に一羽の鳥が男性を驚かせてしまう。驚いた拍子に手を滑らせ、彼はそのまま落下。悲劇的な事故となる。
それから51週が経過して、男性の婚約者だった女性は深い喪失感に包まれていた。酒に溺れ、父親にも当たり散らす日々。生気を失った表情で、亡き婚約者の留守番電話にメッセージを吹き込む姿が描かれていく。
そこへ、旅に出ていた親友が帰ってくる。彼女は憔悴しきった友人の姿に驚きながらも、「いっそ高い鉄塔に登って、その頂上で遺灰を撒こう」と提案する。最初はそんな提案に耳を貸そうとしなかった主人公だったが、次第に心が動き始め、ついに決意。車で6時間ほどの場所にある、古びた送電塔へと向かうこととなる。
途中のダイナーでは、スマホを裏技で充電する姿が映されたり、冗談を言い合ったりしながら旅路は進み、そしてついに鉄塔の前に立つ。どこもかしこも錆びて軋み、見ている側も足元がおぼつかなくなるような不安定さの中、ゆっくりと、慎重に登っていく。
600メートルの高さ。頂上に辿り着いた二人は、亡き恋人の遺灰を風に乗せて散らし、ようやく一つの区切りを迎える。そして下山しようとするが、なんと梯子が外れてしまい、そこからまさかの“降りられない”状況に突入する。
スマホにメッセージを打ち込み、靴に忍ばせて落とすことで救助を求めようとしたり、キャンピングカーにいた人に照明弾を使って気づいてもらおうとしたりと、さまざまな試行錯誤が続く。さらに、リュックが引っかかってしまい、命綱を使っての無謀な回収作戦が始まる。
ハゲワシが襲ってきたり、充電が切れたドローンのために一番高い照明塔に登って給電したり、次々と困難が押し寄せる中、物語は思わぬ方向へと展開していく。途中で明かされる親友と婚約者の関係や、父親との思い出話など、内面を深く掘り下げる要素も差し込まれ、登場人物たちの背景が少しずつ浮かび上がってくる。
そして最後には、大きな決断と共に、ようやく主人公は過去と向き合う勇気を持つ。その結末は静かでありながら、強い余韻を残すものとなっていた。
冒頭から描かれるロッククライミングのシーンは、映像から伝わる「高さ」の感覚が非常にリアルで、手に汗握る緊張感に満ちておりました。600メートルを登るというだけでも十分に迫力があるのですが、頂上での描写や、そこから降りられなくなる展開は、スリルと恐怖がしっかりと積み重ねられていたように感じます。
ドローン撮影やSNSフォロワーの話題が現代的なアクセントとなり、登場人物たちの若さと無鉄砲さが強く印象づけられました。撮影のためにぶら下がる姿を見て、「もうやめてほしい」と感じながらも目が離せなくなる、そんな映像の力が詰まっていたように思います。
ただ、途中に挿入される不倫のエピソードや、父親との思い出話など、感情の背景を描く場面になると、どうしても物語の動きが一旦止まってしまう印象もございました。そこに対して物足りなさを感じたりもしました。
とはいえ、終始過酷な環境でのサバイバルに挑む登場人物たちの身体能力の高さや精神力には、素直に驚かされました。人間一人を両手で持ち上げたり、高所で片手で体を支えたりと、まさに極限の力を見せてくれる作品で、目を奪われる場面が多かったです。
☆☆☆
鑑賞日:2023/02/09 T・ジョイPRINCE品川
監督 | スコット・マン |
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脚本 | ジョナサン・フランク |
スコット・マン |
出演 | グレイス・フルトン |
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ヴァージニア・ガードナー | |
ジェフリー・ディーン・モーガン | |
メイソン・グッディング |