映画【哭悲(こくひ)/THE SADNESS】感想(ネタバレ):狂気が連鎖する台湾ホラー

THE SADNESS
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●こんなお話

 狂暴化する伝染病が蔓延して離ればなれの恋人が再会しようとする話。

●感想

 台湾では「アルヴィン」と呼ばれるウイルスが広がっていた。しかし感染しても軽い風邪程度の症状しか出ないとされ、人々は危機感を失っていた。テレビ番組では医師がウイルス変異の危険性を訴えていたが、司会者は冗談交じりに受け流し、世間も深刻には考えていなかった。

 恋人同士のジムとカットも、いつも通りの朝を迎えていた。来週のデートの約束を忘れて仕事を入れてしまったジムに対し、カットは不機嫌な態度を見せる。微妙な空気のまま支度を終えたジムは、ベランダから外を眺める。すると向かいの建物の屋上には、血まみれの男が立ち尽くしていた。さらにアパートの隣人リンから、最近増えている奇妙な暴力事件について不気味な話を聞かされる。

 ジムは原付バイクでカットを職場まで送り届け、そのまま友人の営む朝食店へ向かう。街では警察官が暴れる男を取り押さえており、通行人の服にも血が付着していた。すでに街全体に異様な空気が漂っていた。

 朝食店で食事を待っていたジムの前に、一人の老婆がふらりと入店する。直後、老婆は突然暴れ出し、店内は一瞬で惨劇へ変わる。熱した油が人の顔へ浴びせられ、客同士が殴り合い、噛みつき合いを始める。感染した人々は笑いながら他人を襲い、血まみれの混乱が広がっていく。店の外では上空から人間が落下し、車が歩行者を轢き飛ばしていた。ジムは命からがら店を脱出する。

 同じ頃、地下鉄に乗っていたカットも異変に巻き込まれていた。隣に座っていたスーツ姿の男が不気味に話しかけてきた直後、車内の乗客が突如として暴れ始める。感染した男は乗客を殴り殺し、車内は逃げ場のない地獄と化す。人々はパニックになり、悲鳴と血しぶきが飛び交う。感染者は次々と増え、地下鉄は完全な修羅場へ変わっていく。

 カットはモリーという女性と警備員のケヴィンと共に地下鉄から脱出するが、背後からはあのスーツ男が執拗に追いかけてくる。街では至る所で暴動と虐殺が発生し、軍隊まで出動していた。感染者たちは笑顔を浮かべながら人々を襲い、警察も制御不能に陥っていく。

 一方のジムはアパートへ戻るものの、住人たちはすでに感染し暴れ回っていた。隣人リンも完全に狂気へ飲み込まれており、ジムに襲いかかる。激しい格闘の末、ジムは指を切断されながらも逃走する。その後もカットへ電話をかけ続け、彼女のいる病院を目指して街を進んでいく。

 カットたちは病院へ避難するが、負傷者が次々と運び込まれ、院内は混乱状態になっていく。そんな中、地下鉄でカットを追っていたスーツ男が病院へ現れる。男は患者や看護師を次々に殺害し、モリーを捕まえる。病院内には悲鳴が響き渡り、逃げ惑う人々が次々と感染者に襲われていく。

 ケヴィンは安全になったと判断して移動を始めるが、物陰から現れた感染者に襲われ命を落とす。カットは院内を必死に逃げ回り、研究室へ辿り着く。そこにはウォン博士が隠れていた。博士は感染について調査を続けており、カットの血液に特異な反応がある可能性を語る。そして救助用ヘリコプターが来る屋上へ向かうが感染者に襲われる。そこにジムが現れるが。しかし再会した彼の様子はすでに変わり始めていた。

 ジムは涙を流しながらも、自分の中で抑えきれなくなっていく暴力衝動を口にする。愛しているはずのカットを傷つけたいという感情が溢れ出し、徐々に理性を失っていく。カットは恐怖の中で病院内を逃げ、屋上へ向かっておしまい。


 冒頭の日常パートから不穏な空気をじわじわ漂わせる演出がとても上手かったです。恋人同士の何気ない会話から始まるのに、窓の外に立つ血まみれの人物や、隣人との不気味な会話によって、すでに街が壊れ始めていることを感じさせてきます。この“静かな異常”の見せ方がかなり印象的でした。

 そして朝食店のシーンから、一気に映画のテンションが爆発します。熱した油を浴びせる場面、人が落下してくる場面、店内で次々と始まる暴力描写など、最初から容赦がありません。血しぶきや肉体破壊の演出も非常に派手で、スプラッター映画としての勢いが凄まじかったです。

 特に地下鉄パートは緊張感が強く、どこから感染者が襲ってくるか分からない恐怖が続きます。狭い車内で逃げ場がなく、人々が次々と狂気へ変わっていく光景はかなりインパクトがありました。スーツ姿の男が静かにカットへ執着していく不気味さも際立っていて、ただのゾンビ映画とは違う嫌悪感があります。

 病院パートに入ってからは、逃走劇とサスペンス色が強くなり、隠れながら移動する緊張感が続いていきます。感染者が突然現れる演出も多く、落ち着く暇がありませんでした。ウォン博士が登場してからは、世界が完全に崩壊へ向かっていることも見えてきて、終末感がさらに強まっていきます。

 一方で、テンポが少し停滞する部分もありました。ニュース番組の会話や博士の説明シーンは間を長く感じる場面があり、勢い重視の作品だからこそ、もう少し短くまとめても良かったように感じます。

 また、本作はグロテスク描写だけでなく、性的暴力の演出もかなり過激です。血まみれのスプラッターを期待して観ても、そこで好みが分かれる人は多いと思います。残酷描写そのものより、人間の欲望や悪意をむき出しにする方向性がかなり強烈でした。

 ただ、ホラー映画としてのエネルギーは圧倒的です。感染によって理性を保ったまま狂気へ変わっていく設定も面白く、街全体が崩壊していく地獄絵図には独特の迫力がありました。B級ホラーやスプラッター映画が好きな人なら、かなり印象に残る一本だと思います。

☆☆☆

鑑賞日:2022/07/01 チネチッタ川崎 2026/05/27 U-NEXT

監督ロブ・ジャバズ 
脚本ロブ・ジャバズ
出演レジーナ・レイ 
ベラント・チュウ 
ジョニー・ワン 
アップル・チェン 
ラン・ウエイホア 
エマーソン・ツァイ 
ラルフ・イエンシヤン・チウ 
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