映画【新仁義なき戦い 組長の首】感想(ネタバレ):仁義と裏切りが交錯する、出所後の旅人が見たヤクザ社会の現実

Shin jingi naki tatakai: Kumicho no kubi
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●こんなお話

 北九州のヤクザで親分たちのために身体を張った主人公が組長の首を狙う話。

●感想

 主人公は旅の途中、知り合いのヤクザに頼まれて、代わりに敵対するヤクザを射殺する。罪を背負った主人公はそのまま逮捕され、懲役7年の刑に服すこととなる。刑期を終えて出所した主人公は、かつての義理のためにそのヤクザを訪ねる。しかし再会したその人物は、まったく出世しておらず、むしろ薬物中毒に陥っており、金も用意できないという状態だった。

 主人公は、かつての義理と現実とのギャップに困惑しながらも、ヤクザ組織内で起こっている跡目争いや抗争の渦に巻き込まれていく。組長の座を巡って子分たちが画策し合い、裏切りや策略が絶えず続く日々のなかで、主人公もまた否応なく事態に関与することになる。

 争いのなかでは、ヤクザ社会に生きる女性たちの姿も印象的に描かれる。恋人や夫となる男たちが次々に命を落としていく運命を背負いながら、それでも男たちと共に生き抜こうとする強さと色気が、物語の背景に深みを与えていく。

 やがて事態は大きく動き出し、主人公はついに怒りを爆発させ、組長の命を狙ってのカーチェイスへと突入していく。これまでの「仁義なき戦い」シリーズとはひと味違った展開を見せる本作は、意外性に満ちた一作となっている。

 物語の中心にあるのは、裏切りと忠義が入り乱れる抗争劇でしたが、物語のテンポがよく、登場人物たちの思惑が複雑に絡み合っていく展開に引き込まれました。主人公が出所後に再会するかつての知人が薬物に溺れていたり、まったく恩に報いようとしなかったりする描写は、虚しさと哀しさが滲んでいたように感じます。

 特に印象的だったのが、女性キャラクターたちの存在感でした。彼女たちの周囲では男たちが次々に命を落としていくのに、どこか揺るぎない美しさと意志の強さがあって、スクリーンを通して伝わってくる情念がとても鮮やかでした。恋人や家族であっても情を捨てきれないまま、その関係性が深く描かれていた点も心に残りました。

 また、菅原文太さん演じる主人公の立ち位置が絶妙で、子分たちが命をかけて敵対勢力を襲撃していく中、それを遠巻きに見つめるシーンには独特の怖さがありました。力で制圧するでもなく、視線だけで支配しているような迫力を感じさせてくれます。そして山崎努さんが演じる薬物中毒者の姿も忘れがたく、白塗りのような顔に浮かぶ無表情さが、生々しい狂気を感じさせてくれました。

 跡目争い、裏切り、怒りの爆発、そして最終的な決断へと続く展開は、まさに王道のヤクザ映画の魅力を詰め込んだような内容で、物語に入り込みやすかったです。ド派手な暴力描写だけではなく、人間の感情の揺れがきちんと描かれている点に惹かれました。シリーズの中でも印象に残る作品のひとつだったと思います。

☆☆☆

鑑賞日:2022/05/23 Hulu

監督深作欣二 
脚本佐治乾 
田中陽造 
高田宏治 
出演菅原文太 
成田三樹夫 
織本順吉 
室田日出男 
山崎努 
西村晃 
梶芽衣子 
ひし美ゆり子 
一の瀬玲奈 
中原早苗 
渡瀬恒彦 
小林稔侍 
三上寛 
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