●こんなお話
理不尽な看守たちに怒り爆発の囚人たちの話。
●感想
拳銃を突きつけられ、命の危険にさらされた瞬間、反射的に相手を返り討ちにしてしまった男。しかしその行為は正当防衛とは認められず、殺人罪として実刑判決を受けることになる。そうして主人公は、島根の刑務所へと送られる。映画はこの主人公の獄中生活を軸に、数々の出来事をテンポよく描いていく。暴動、脱走、囚人同士の衝突、理不尽な看守たちの暴力、そして逃亡劇と、95分という上映時間の中に、圧倒的なエネルギーが詰め込まれている作品だった。
刑務所内では、佐藤慶さんや室田日出男さんが演じる看守たちが権力を振りかざし、人権を顧みない対応を繰り返す。監獄という閉ざされた空間の中で、支配する者とされる者、その立場の違いが色濃く描かれていく。囚人の中にも上下関係があり、金子信雄さん演じる権力を持つ囚人と衝突し、ついには暴力の果てに殺してしまう。その結果、主人公の刑期はさらに延びてしまう。
ある日、刑務所長の家の掃除をする作業に出された主人公は、そこで刑務所長の妻に手を出してしまい、刑務官の服を盗んで脱走する。脱走後は仲間の元へ身を寄せる。その仲間は犬のブリーダーのような仕事をしており、その妹と主人公が関係を深めていく。2人はそのまま逃避行を続けるのだが、その途中で川に落ちた子どもを助けたことから、まさかの表彰を受けることに。しかし、期待していた謝礼金はなく、渡されたのは賞状だけ。その場で身元がバレて再逮捕されるという展開が、どこか可笑しみもありながら、現実の冷たさも感じさせる。
田中邦衛さん演じるベテランの囚人は、主人公に獄中での食事のマナーを教え、飼っている豚に愛情を注ぐ。しかし、その豚さえも奪われそうになる苦悩を抱え、刑務所内のささやかな希望すら脅かされる。北大路欣也さんは仮出所した直後に襲撃され、再び事件を起こしてしまうという運命を辿る。自由の重みと責任、そして過去が消えないことの厳しさを体現した役どころだった。
物語後半、刑務官から「全員謹慎」と命じられた囚人たちは、「飯よこせ!飯よこせ!」と叫びながら団結し、ついには暴動へと発展する。このあたりのエネルギーの噴出が凄まじく、スクリーンの向こうから熱気が伝わってくるようだった。看守たちを人質に取り、主戦派の松方弘樹さんと、交渉を担う北大路欣也さんの対立が描かれる。暴力か、対話か。まさに極限状態の選択が迫られる場面だった。
その後、脱走計画を巡る騙し合いの果てに、主人公たち2人は網走刑務所への移送を命じられる。手錠をかけられたまま、再び脱走を図るふたり。橋の下にぶら下がり、汽車が通過するタイミングを待つ姿が印象的で、言葉を使わずとも状況の緊迫感が伝わってきた。そしてふたりは再び逃走の道へと踏み出していく。
全体を通して、権力側や体制側が徹底して悪として描かれている点が非常に鮮明で、それによって囚人側に対して自然と感情移入させられる構造になっていると感じました。社会の理不尽さ、暴力の連鎖、人が抱える怒りや哀しみといったものがギュッと詰まっていて、暴力的な描写も多いのにどこか詩的にすら思えるような不思議な力を持った映画だったと思います。
☆☆☆☆
鑑賞日:2022/01/14 DVD
監督 | 中島貞夫 |
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脚本 | 野上龍雄 |
出演 | 松方弘樹 |
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田中邦衛 | |
金子信雄 | |
槙健太郎 | |
佐藤京一 | |
片桐竜次 | |
織本順吉 | |
江幡高志 | |
有川正治 | |
成瀬正孝 | |
伊吹吾郎 | |
佐藤慶 | |
戸浦六宏 | |
室田日出男 | |
南道郎 | |
唐沢民賢 | |
阿波地大輔 | |
野口貴史 | |
佐々木俊志 | |
中谷一郎 | |
志賀勝 | |
川地民夫 | |
賀川雪絵 | |
橘麻紀 | |
名和宏 | |
佐々木リエ | |
汐路章 | |
木谷邦臣 | |
川谷拓三 | |
八木孝子 | |
丸平峰子 | |
山田良樹 | |
中村錦司 | |
小松方正 | |
奈辺悟 | |
松本泰郎 | |
北大路欣也 |