●こんなお話
旅する若者が狼男に襲われる話。
●感想
アメリカからやってきた青年デヴィッドとジャックは、イギリスの田舎をバックパックで旅している。荒野を歩き続け、寒さに耐えながらようやく酒場にたどり着く。しかし地元客たちはよそ者を嫌う雰囲気。夜の荒野を歩き出す2人。満月の夜に聞こえてくる獣の遠吠え。恐怖に駆られ走るが、やがて獣に襲われジャックは無惨に殺され、デヴィッドだけが血まみれのまま生き残る。
デヴィッドが目を覚ますとロンドンの病院のベッドの上。担当看護師のアレックスが親身に世話をしてくれる。だが彼の前に現れるのは、惨殺されたはずの親友ジャック。腐乱した姿で「お前は狼男に噛まれた。次の満月で変身し、人を殺す運命だ」と忠告する。デヴィッドは夢か幻かと混乱し、同時に凶暴な悪夢に苛まれ、心身ともに追い詰められていく。
退院後、看護師アレックスの家に居候することになるデヴィッド。2人は親密な関係になり、アレックスは彼の支えになろうとするが、ジャックの亡霊は執拗に現れ続ける。映画館や街頭などあらゆる場所で、ますます腐敗した姿で現れ、「自ら命を絶て、そうすれば他に犠牲者は出ない」と迫る。だがデヴィッドは現実感を失い、どうすることもできない。
そして満月の夜。予告されたとおり、デヴィッドは苦痛にのたうち回り、壮絶な肉体変化を遂げて狼男へと変貌。骨が折れ、体毛が逆立ち、顔が伸びていく変身シーンは凄まじく、やがて街へ解き放たれた獣は次々と人々を襲っていく。ホームレスや地下鉄の通路で逃げ惑う会社員を追い詰め、路上のカップルを噛み殺し、ロンドンの夜は血の惨劇に染まる。
翌朝、裸で動物園に目覚めたデヴィッド。昨夜の記憶は曖昧だがニュースで連続殺人が報じられ、自分が犯人だと理解していく。アレックスに打ち明けるが信じてもらえず、自首しようとしても信じてもらえない。精神崩壊寸前の彼は人ごみのなかへ。ポルノ映画館で被害者の亡霊に自殺をするように言われるけど、そこでもまた満月が昇り、変身が始まる。
狼男となったデヴィッドは街中を暴走し、車の衝突事故を巻き起こし大混乱。軍と警察が出動して広場を封鎖する中、アレックスが群衆をかき分け彼に近づく。「愛している」と涙ながらに呼びかけるアレックス。しかし獣の瞳に人間の理性はなく、牙をむく狼男。銃声が響き、倒れたその姿は元のデヴィッドの若い人間の体。アレックスが絶望に沈むなか、物語はおしまい。
オープニングのパブのシーンは、アメリカ人が場に馴染めず異様な視線を浴びる緊張感が非常に鮮やかに描かれており、観客までも肩身の狭さを体感するような空気がありました。あの場面だけでも、この映画が単なるホラーに留まらないことを強く印象づけていたと思います。
そしてリック・ベイカーによる変身シーンは、現在の視点で観てもなお衝撃的で、映像技術の粋を感じました。肉体が軋み、骨が変形していく過程を執拗に映すことで、観る側も痛みを覚えるような迫真性がありました。同時に、ジャックが少しずつ腐敗していく姿をユーモラスに描いている部分は、恐怖と笑いが奇妙に同居する独特のトーンを作り出していたと感じます。
主人公が見る悪夢の中で、狼男たちが家族を襲うシーンはあまりにも唐突で暴力的ですが、その不条理さが強烈な印象を残しました。さらに終盤のカークラッシュの連続シーンは、わずかなカット割で次々に事故を積み重ねていく演出が強烈で、不謹慎ながらも目を離せない迫力がありました。
また、ポルノ映画館で亡霊が自殺を薦めるという異様な場面は、笑ってよいのか真剣に受け止めるべきなのか観る側を戸惑わせる不思議な魅力を持っていました。ただ、主人公と看護師アレックスの恋愛の進展が早すぎるように感じたり、ベッドシーンがやや冗長に思えたりする部分もありました。
全体として、前半の牧歌的な旅の空気から後半の急展開に移る物語のテンポには驚かされました。変身シーンが突然始まることに戸惑いも覚えましたが、その唐突さがかえって本作の強烈な個性を際立たせていたように思います。狼男映画の古典として、今観てもなお鮮烈な印象を残す作品でした
☆☆☆
鑑賞日:2011/01/20 DVD 2025/08/18 DVD
監督 | ジョン・ランディス |
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脚本 | ジョン・ランディス |
出演 | デイヴィッド・ノートン |
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グリフィン・ダン | |
ジェニー・アガター | |
ジョン・ウッドヴァイン |