映画【イノセント・ガーデン】感想(ネタバレ):映像美と不気味さが織りなす独特な世界観、少女の成長と謎に迫るサイコサスペンス

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●こんなお話

 主人公の行方知らずだった叔父さんが現れたことにより、トラブルが巻き起こる話。

●感想

 冒頭、ひとりの女性が車から降り、静かに草むらの奥へと歩みを進めていく。画面に映し出されたのは真っ赤に染まった花のクローズアップ。そこにタイトルクレジットがかぶさる演出が非常に印象的で、これだけで本作のただならぬ雰囲気を感じ取ることができました。冒頭のこのシークエンスが、観る者に強烈な引力をもたらし、傑作の予感を抱かせる素晴らしい導入となっています。

 続いてクレジットが流れるなか、少女が木の幹に置かれた誕生日プレゼントの箱を開けると、そこには一本の鍵が入っている。テーブルにはバースデーケーキが置かれていて、ケーキを真上から捉えた映像の直後に少女の叫び声が響き渡り、メインタイトルが力強く現れます。冒頭から演出が凝っており、最高のスタートを切っていると感じられました。

 物語は主人公の少女の父親の葬儀から始まります。交通事故による突然の死。姿を消していた叔父が突然現れ、少女の母親とも微妙な関係を築いていきます。主人公は鋭敏な感覚を持ち、特に聴覚が非常に発達しているため、まるでスーパースパイのように遠くの話し声まで聞き取ってしまう特別な能力の持ち主です。

 叔父は母親と親しくなり、家政婦や大叔母といった登場人物たちが何か秘密を抱えているかのような態度を見せるものの、その翌日には忽然と姿を消してしまいます。ストーリーの軸は、突然現れた叔父の存在を中心に、主人公の周囲で起きる異変が徐々に明らかになっていくサイコサスペンスの形式をとっています。

 物語自体は斬新なものではなく、クライマックスで真相が明かされるシーンも劇的に目を見張る展開というわけではありません。しかし、冒頭から終わりまで一貫して漂う独特の映像美と不気味な空気感が、この作品の最大の魅力だと感じました。

 たとえば、ピアノが弾けないと語っていた叔父が主人公の隣で連弾を始め、恍惚の表情を浮かべる場面。主人公の太ももに入り込む蜘蛛の描写など、どこかエロティックなシーンも多々ありました。また、主人公がある現場を目撃した後、その思いに耽りながらの独白的な描写や、自己を慰めるシーンもあり、女性の繊細な心情の変化が巧みに表現されています。

 特に印象深かったのは、主人公がこれまでプレゼントとして受け取っていたスニーカーから叔父が渡すハイヒールに履き替え、そこから彼女の表情が明らかに変わり、立ち上がるという象徴的な瞬間でした。成長と覚醒を示すこの描写がとても美しかったです。

 映像表現も非常に優れており、夜の公園で主人公が男の子と語り合うシーンでは、カメラが対象にグイーンと寄ったり、思い切ったドアップが続いたりする一方で、俯瞰的なカットも多用されています。これにより作品全体の雰囲気が最大限に引き立てられていました。

 時代背景は1950年代あたりかと思いきや、主人公が1994年生まれであることが明かされ、現代の物語であることに戸惑いを覚えました。叔父の影響を受けて変わり始めた主人公のその後が気になる余韻を残しつつ、殺人事件の手口に少しずさんさを感じてしまう部分もありましたが、それも含めて味わい深い作品でした。

 総じて、とても面白い映画で、独特な世界観や映像美、そして主人公の心理描写が印象に残る一作です。

☆☆☆☆

鑑賞日:2013/05/31 TOHOシネマズ府中

監督パク・チャヌク 
脚本ウェントワース・ミラー 
出演ミア・ワシコウスカ 
マシュー・グード 
ニコール・キッドマン 
ダーモット・マローニー 
ジャッキー・ウィーバー 
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