映画【3月のライオン 前編】感想(ネタバレ):過去と現在が交差する将棋と青春の物語

March Comes in Like a Lion
スポンサーリンク

●こんなお話

 若い棋士さんが家庭崩壊とかライバルとかもろもろある前編。

●感想

 物語は終始落ち着いたトーンで進んでいき、大げさな演出や芝居が控えめなぶん、登場人物の感情や内面がじっくりと浮かび上がるような描き方が印象的でした。主人公が一度だけ「将棋しかねえんだよ~」と声を荒げる場面があるものの、それ以外は静かに過去と現在を行き来しながら、彼の歩んできた時間が丁寧に紐解かれていきます。

 ストーリーは現在の主人公と、有村架純さん演じるヒロインとの関係を軸に、過去の出来事が徐々に明かされていく構成になっています。特に有村さん演じるキャラクターは感情の振れ幅が大きく、登場するたびに主人公へ強い言葉をぶつけることが多く、観ていて少し心が痛む場面もありました。その一方で、急に胸元が強調された衣装で登場し、主人公に抱きつく場面なども差し込まれ、人物造形にやや謎を感じる部分もありました。後編で回収されるのかと想像しながら見ていました。

 主人公がなぜ天才と呼ばれるのか、回想シーンからはその片鱗が掴みにくく、現代的で気弱な青年という印象のまま物語が進行していきます。彼の成長のきっかけとなる場面も、佐々木蔵之介さんの指導を受けるくだり以外はあまり多く描かれておらず、将棋の強さの裏付けや勝敗の論理が伝わりにくかったように感じました。

 また、物語の中盤から登場する染谷将太さん演じる友人は、最初は軽妙なキャラクターかと思いきや、急に難病を発症するというシリアスな展開へと変わっていきます。そしてクライマックスでは、主人公が窮地に追い込まれた時、染谷さんの言葉を思い出して奮起するという流れになります。ただ、それまでに2人の友情が深く描かれているわけではないため、彼の言葉が何度も反復される展開にやや唐突さを感じてしまいました。

 物語の後半では、3姉妹や家族関係の問題などを通じて描かれていたドラマが、最終的には染谷さんという別の人物の影響によって主人公が再生するという形になり、どの人物の関係性を軸に見るべきなのか少し迷うところもあったように思います。

 そして前編のクライマックスでは、主人公の対局ではなく、彼が敗れた2人の先輩棋士同士の対局がメインとなり、ドラマとしての山場がやや弱く感じられました。スポ根的なカタルシスを期待していた身としては、その構成に肩透かしを食らったような感覚もありました。もしかすると後編での展開を見越した伏線になっているのかもしれませんが、140分という長尺の中でもっと主人公自身の戦いや成長を際立たせる演出があってもよかったと感じます。

 それでも静かな映像と落ち着いた空気感の中で、役者の演技がしっかりと伝わってくる映画ではありました。前編だけではまだ物語の全貌が見えてこない部分も多いため、後編でどのように回収されていくのかを楽しみに待ちたいと思います。

☆☆

鑑賞日: 2018/01/11 DVD

監督大友啓史 
脚本岩下悠子 
渡部亮平 
大友啓史 
原作羽海野チカ
出演神木隆之介 
佐々木蔵之介 
伊藤英明 
加瀬亮 
倉科カナ 
清原果耶 
前田吟 
有村架純 
豊川悦司 
高橋一生 
岩松了 
斉木しげる 
尾上寛之 
板谷由夏 
染谷将太 

コメント

タイトルとURLをコピーしました