映画【姿三四郎(1943)】感想(ネタバレ):ステッキの柔術家が忘れられない!

sanshiro-sugata
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●こんなお話

 若き柔道家の話。

●感想

 物語のつながりに違和感を覚えたのは、やはり検閲の影響が色濃く出ているからかもしれません。ところどころで急に場面が飛んでしまう構成に戸惑いながら、それでも映像から伝わってくる力には惹きつけられるものがありました。

 対戦相手を倒してしまった三四郎に対して、その娘が放った「人殺し!」という叫びが響くシーンから始まります。罪の意識に押し潰されそうになる三四郎の姿に重たい空気が漂いますが、そこから彼がどうやって再び心を立て直したのか、その描写が抜け落ちているようで、その後の展開に気持ちがついていきにくかった印象です。

 次の場面では、すでに三四郎は師匠とともに歩いていて、別の対戦相手の娘が神社でお百度参りをしているシーンに移っていました。物語の時間の流れが突然大きく飛んだようで、その間に何があったのか、観客として追いきれず戸惑いました。この娘さんとの関係も、恋愛の要素が含まれているはずなのですが、描写の間が抜けてしまっているため、感情移入する余白があまりなかったように思います。

 それでも、各場面ごとのアクションシーンには目を見張るものがありました。冒頭のシーンでは、三四郎の師匠が闇討ちにあう場面。川を背にしながら闘う構図は、まさに背水の陣そのもので、視覚的にも緊張感のある演出が印象的でした。そして志村喬さん演じる柔術家との一戦では、互いの技と気迫がぶつかり合う音までもが響いてきそうな密度の高い格闘シーンに、ただただ画面に釘付けになりました。

 クライマックスでは、すすき野原に強風が吹き荒れる中での決戦が展開されます。髪がなびき、草が揺れ、まるで自然そのものが闘いを見守っているような空間が作り上げられていて、風景の力もまた映像の一部であると実感できる場面でした。

 また、カタキ役として登場するステッキを持った柔術家もとても魅力的でした。最初に主人公の仲間を倒して圧倒的な強さを見せつけ、その存在感をしっかりと印象づけてきます。その後も「三四郎を倒せるのは俺だけだ」といったセリフを堂々と放ち、自信と誇りを持った強敵として、物語を引き締めてくれていました。

 物語全体を通して、完全な形で観ることができたなら、もっと人物の心の動きや関係性の変化にも深く入り込めたのではないかという気持ちが残りました。完成版がどのような構成になっていたのか、ぜひとも知りたいと思わせてくれる一本でした。

☆☆☆

鑑賞日:2011/07/18 DVD

監督黒澤明 
脚本黒澤明 
原作富田常雄 
出演大河内傳次郎 
藤田進 
轟夕起子 
月形龍之介 
志村喬 
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