●こんなお話
人間に作られた最強のポケモンがポケモンのコピーを作っちゃうんで、主人公たちと戦う話。
●感想
嵐が吹き荒れる孤島に向かう船の上。旅の途中で届いた謎の招待状に導かれ、主人公のサトシたちは新たな冒険へと足を踏み出す。しかし物語はそこから始まるのではなく、その前段として描かれるのは、人間によって遺伝子操作で生み出された最強のポケモン・ミュウツーの苦悩と覚醒だった。
自分がなぜ存在するのか、自分は一体何者なのか。問う相手もおらず、答えもなく、科学者たちの冷たい観察のまなざしの中でただ生まれ、生かされている。そんなミュウツーが人間への疑念と怒りを抱き、研究施設を破壊して飛び立つまでの20分間は、ポケモンというシリーズに触れていなくても一つの生命が自我に目覚めていくまでのドラマとして見ごたえのある導入でした。
やがて主人公たちが到着する島では、ミュウツーが待ち受けており、集められた優秀なトレーナーたちのポケモンをコピーし、自らの軍団を作ろうとしていることが明らかになります。彼の目的は力によって真の支配を実現すること。人間が生んだ最強の存在が、人間やポケモンに対して自身の存在意義を証明しようとする構図になっていて、テーマは意外にも哲学的な響きすらありました。
主人公たちのポケモンが次々と倒され、コピーに置き換えられていく過程では、原作ファンであればより深く感じられる恐怖や絶望感があったのかもしれません。個人的には、コピーの方が強いという設定がありながら、後半のバトルになると意外と互角に戦っているようにも見えて、少し拍子抜けする部分もあったように思います。
クライマックスに向かっての流れは非常にテンポが速く、ピカチュウのコピーとの対峙、主人公の体を張った行動、そして感動の復活劇へと怒涛の展開を迎えます。サトシが体を張ってコピー機械を止めようとする場面は、ヒーローとしての覚悟を見せるものでしたが、あまりに簡単に事態が収束してしまうことに驚きもありました。そして、ピカチュウの涙によってサトシが蘇るという奇跡のシーンは、シリーズを知っている人にはお馴染みなのかもしれませんが、まったく予備知識がない立場からすると「どういう仕組みなんだろう?」と戸惑ってしまいました。
また、ポケモン同士の戦いが思いのほか直接的で、拳で殴り合い、ビンタを繰り返す場面には少し驚きもありました。ゲームやアニメではあまり見られないような肉弾戦の描写が続き、画面の中のポケモンたちが傷ついていく様子に切なさを感じた方も多かったのではないかと思います。
作品全体としては90分という短めの尺の中に、大きなテーマやスケールのあるストーリーが詰め込まれており、そのぶん非常にテンポの良い進行が続いていきます。コンパクトにまとまっているからこその見やすさはありましたが、個人的にはもう少し一つひとつの場面を丁寧に描いてもらえると、物語としてより深く楽しめたかもしれないと感じました。
☆☆☆
鑑賞日:2020/12/16 Amazonプライム・ビデオ
監督 | 湯山邦彦 |
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演出 | 日高政光 |
井硲清高 | |
脚本 | 首藤剛志 |
出演(声) | 松本梨香 |
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大谷育江 | |
市村正親 | |
山寺宏一 | |
飯塚雅弓 | |
上田祐司 | |
こおろぎさとみ | |
林原めぐみ | |
三木眞一郎 | |
犬山犬子 | |
鈴置洋孝 |