●こんなお話
瀬戸内海で島で殺人事件が起こって金田一さんが犯人捜しする話。
●感想
静かな瀬戸内の小島を舞台に、土地に根付いた旧家と、その内部に渦巻く複雑な人間関係が丁寧に描かれていく。格式ある家柄を中心に、親族や使用人たちが次々と登場し、表面上は礼節を保ちつつも、そこに潜む愛憎や秘密が徐々にあらわになっていく構成は、まさに横溝正史作品ならではの空気感に満ちていた。
登場人物の顔ぶれは実に濃く、第二夫人や双子の姉妹といった要素が物語に絡み、誰が誰で、何がどうつながっているのかがわからなくなるほど複雑な人間関係に、逆に横溝的世界観の醍醐味を感じることができた。時に「混乱」さえも快感として味わえるという点で、往年の日本ミステリー映画の雰囲気を好む方には楽しめる一本ではないかと思います。
物語が動き出すのは、上映開始から50分を過ぎた頃。全体が130分の長尺であることを思えば、やや遅い導入とも感じた。前半は主に登場人物の紹介や、島の空気を描写するシーンが続くため、やや間延びして感じられる部分もあった。加えて、1981年という製作年の持つ独特の質感が随所にあり、音楽や映像演出にも当時らしさが漂っていて、ノスタルジーを覚える一方で、ややチープな印象を受ける場面も見受けられました。
事件の真相が明かされる終盤になると、やや急ぎ足な展開となり、主人公が突如として事の核心に迫り、そこに回想が挿入されていく形で、島に隠された過去の秘密が紐解かれていく。このあたりは、真実が次々と語られていくこと自体には興味深さがあるものの、そのカタルシスをじっくりと感じる前に話が一気に進んでしまう印象がありました。双子の一人が恋愛を引き裂かれたことによって精神を病み、島の男たちと関係を持ち始めるという展開や、原爆で亡くなったとされるもう一人の存在を偽るという筋立ては衝撃的ではあるのですが、語り口のスピードに追いつけず、どこか感情が置き去りにされる感覚も覚えました。
さらには、物語の後半で比重を占めていた父親を探す若者のエピソードも、作品全体の筋から考えるとどの程度必要だったのかが見えにくく、少しばかり整理不足な印象も残りました。
とはいえ、本作には俳優陣の存在感という強みがあります。岩下志麻さんの凛とした美しさ、佐分利信さんの落ち着いた渋さ、そして石橋蓮司さんの女装という強烈なビジュアルは、物語以上に画面を支配しており、それらを見ているだけでも不思議と引き込まれる魅力がありました。俳優の持つ個性が画面越しににじみ出るような感覚で、映画を通して、その時代の日本映画が持っていた力を感じられたことは収穫でした。
☆☆
鑑賞日:2020/12/01 DVD
監督 | 篠田正浩 |
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脚本 | 清水邦夫 |
原作 | 横溝正史 |
製作 | 角川春樹 |
出演 | 鹿賀丈史 |
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室田日出男 | |
古尾谷雅人 | |
岸本加世子 | |
中島ゆたか | |
大塚道子 | |
二宮さよ子 | |
宮下順子 | |
原泉 | |
武内亨 | |
嵯峨善兵 | |
氏家修 | |
草間正吾 | |
鷹瀬出 | |
浜村純 | |
根岸季衣 | |
多々良純 | |
中尾彬 | |
佐分利信 | |
伊丹十三 | |
石橋蓮司 | |
岩下志麻 |