●こんなお話
女子高生がアバターを使って暴走していく話。
●感想
携帯電話の中に広がる仮想空間で、自分のアバターを装飾していくことが、そのまま現実の自分の価値に結びついていくという設定は、現代社会の一側面を鋭く切り取っていて、非常に印象的でした。見た目のステータスが、そのまま人間関係や居場所に直結していくという感覚は、もはやフィクションではなくなりつつある今の時代において、ごく自然に入り込んでくるテーマだと感じました。
物語は、誕生日に母親から携帯電話をもらったいじめられっ子の主人公が、クラスの不良たちに強制的にある携帯サイトに登録させられるところから始まります。最初は嫌々ながら手を出していたその世界に、ひょんなことからレアアイテムを手に入れたことで状況が一変。今まで見下されていた存在が、徐々に力を持つ側へと移っていきます。最初はささやかな満足感だったはずのアバターの装飾が、気づけば自分そのものになり、欲望の坂を転がり落ちるようにのめり込んでいく様子には、観ていて背筋がひんやりとする感覚がありました。
アバターのアイテムを手に入れるため、主人公は電子マネーを求め、ついには援助交際にまで手を染めるようになります。その過程が淡々と描かれているからこそ、なおさら現実味を帯びて感じられ、観ている側としても戸惑いながらも目が離せなくなっていきます。とはいえ、現実でコンビニの店員に何十万円もの現金を出す場面では、さすがに少しリアリティが飛んでしまった印象もありました。
後半になると、主人公は自らをいじめていた相手を巧みに追い落としていきます。彼の行動は、ただの復讐心によるものではなく、そこには過去に受けた深い心の傷と、それに対するどうしようもない執着がありました。後半でその理由が明かされることで、ようやく彼の行動に筋が通って見えるようになるのですが、オープニングの段階でやや情報が出過ぎていたために、真相を知ったときの驚きはそこまで大きくなく、もう少し演出に緩急があればより印象的だったかもしれません。
いじめていた側も、いじめられていた側も、どちらにも完全には感情移入しきれない構造になっていた点が印象的でした。観ている間ずっと、どちらにも共感できずに浮遊しているような不思議な感覚があり、その不安定さこそがこの作品の魅力とも言える気がします。全体を通して、感情を突き動かされるというよりも、観察者の視点でじっくり見つめるような鑑賞体験になりました。
主人公の欲望は止まることなくエスカレートしていき、ついには味方だった人物までも殺してしまうという極端な展開を迎えます。その描写はやや誇張された表現ではあるものの、実際にゲームやSNSの中で価値を追い求め、現実との境界が曖昧になっていく人々の姿と重ねて考えると、どこか他人事とは思えないリアリティがありました。
いじめの描写や教師のキャラクター造形には、やや漫画的な誇張が見られ、現実味よりも物語的な演出が優先されていた印象を受けます。特に“アバター部”と呼ばれる集団の登場シーンは、その異様な風貌もあって、映画『リアル鬼ごっこ』の鬼たちを思い出させるような迫力があり、場面としてのインパクトは大きかったです。マスクをかぶった集団が町を駆け回る様子には、異様さと不気味さが入り混じっていて、視覚的にも印象に残りました。
全体としては、突飛な設定を通して、現代の欲望や自己表現に対する渇望を描いた作品で、物語としても緩まず、最後まで惹きつけられたまま観ることができました。約90分という尺の中に、現代の若者たちが抱える葛藤や孤独、そして承認欲求の危うさが詰め込まれていて、観終えた後にはなんとも言えない余韻が残る映画でした。
☆☆☆
鑑賞日:2011/09/29 DVD
監督 | 和田篤司 |
---|---|
脚本 | 野口照夫 |
原作 | 山田悠介 |
出演 | 橋本愛 |
---|---|
坂田梨香子 | |
水沢奈子 | |
はねゆり | |
佐野和真 | |
指出瑞貴 | |
大谷澪 | |
増山加弥乃 | |
清水富美加 | |
鈴木拓 |