●こんなお話
シングルファーザーの50歳の男、仕事にも疲れたり娘との関係があんまりうまくいってなかったけど。突然、4歳の子どもを預かることになり、子育てに苦労したり恋にときめいたり友情を再確認したりという話。
●感想
映画の登場人物たちは一人ひとり丁寧に描かれており、物語はきっちりとした構成のもとで進んでいきます。時に笑いも織り交ぜながら、心地よく展開していく140分の作品です。主人公を演じる佐藤浩市さんは、不倫が原因で離婚に至った過去を深く反省しており、その出来事を今もなお「間違っていた」と真摯に受け止めています。その誠実さが画面から伝わってきて、とても好感が持てました。
また、吉瀬美智子さんが演じる女性は、結婚生活の中で不妊症に悩み、さらに姑との関係も上手くいかずに離婚しています。長い間否定され続けた人生を背負いながらも、主人公と出会って惹かれ合う様子には、静かに伝わる想いの温かさを感じ取ることができました。そして、西村雅彦さん演じる親友のキャラクターも非常に印象深いです。彼は経営するお店で社員をリストラした結果、その男性が自ら命を絶ってしまい、自分を「人殺し」と責める姿に胸が痛みました。
物語の重要なポイントは、彼らがパキスタンのフンザにいる「瞳の中の星を見てくれるおじいさん」に会いに行く場面です。少年も大人たちもそれぞれ自分の生き方に自信を持てずにいたのですが、おじいさんの言葉が彼らに新しい希望をもたらします。その後に登場する「草原の椅子」というタイトルにもある椅子が、物語の象徴的なアイテムとして輝きを放ちます。身体障害者の方が快適に座れるよう工夫されたその椅子は、写真の中では草原の真ん中に置かれているかのように見えますが、実は親友の実家の小さな草むらに置かれているものでした。
親友の言葉、「こんな小さい草っぱらでも、広い草原に感じる。人の生き方を表しているようや。今撮ったのは誰々の人生っていうようにな。それぞれの心に草原があるんやね」がとても心に響きました。この椅子は登場人物たちのそれぞれの人生や生き方を象徴していると感じられます。ヒロインと少年がその椅子に座っている姿を見つめる主人公の視線は、たとえ彼自身の人生に広い草原がなくても、二人の存在に未来を見出しているように思えて、とても温かい余韻を残しました。つまり、視点を変えれば、誰もがそれぞれの草原の椅子を持っているのだと教えてくれているように感じられました。
そして、強烈なインパクトを残すのは、少年の母親を演じた小池栄子さんの役柄です。彼女は少年に暴力をふるってしまったため、少年と引き離されることになります。震災を経験したことから「絆の大切さを知った」と語り、自分の子どもが亡くなった代わりにこの少年を育てるという強い決意を見せますが、その後「事情が変わった」として育児を放棄することになります。この時の佐藤浩市さんとの激しいやり取りは笑いを誘う場面となっており、シリアスな中にも独特の軽妙さが織り交ぜられていました。
全体として、人間味あふれるキャラクターたちの生き様が丁寧に描かれており、悲しみや葛藤、そして希望が複雑に絡み合った物語は、とても深く心に残るものでした。温かさとリアルさを兼ね備えた作品として、多くの方におすすめしたいと思います。
☆☆☆☆
鑑賞日:2013/08/07 DVD
監督 | 成島出 |
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脚本 | 加藤正人 |
奥寺佐渡子 | |
真辺克彦 | |
多和田久美 | |
成島出 | |
原作 | 宮本輝 |
出演 | 佐藤浩市 |
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西村雅彦 | |
吉瀬美智子 | |
小池栄子 | |
貞光奏風 | |
AKIRA | |
黒木華 | |
中村靖日 | |
若村麻由美 | |
井川比佐志 |