映画【一命】感想(ネタバレ):壮絶な切腹と静謐な怒り。現代に蘇る武士道の極限

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●こんなお話

 切腹するする詐欺に嫌気がさした裕福な大名屋敷のトラブルの話。

●感想

 物語は、井伊家にふらりと現れた謎の浪人が何をしに来たのか、その思惑が見えないところから始まる。そして、回想の中で描かれるのは、世間で横行していた“狂言切腹”という風習に乗じて井伊家で切腹を申し出た若い浪人の過去。その場面で描かれる、瑛太が演じる浪人の切腹シーンはあまりにリアルで、直視するのも辛くなるほどの迫力と痛々しさに満ちていました。

 そこから物語の本題に入り、主人公がその若い侍と深い関係があったことを語り始める。続くのは、彼ら家族の回想。貧しいながらも穏やかで温かい日々が描かれていく。だが、その幸せは長く続かず、不幸が次々に降りかかってくる。淡々と、静かに、しかし確実に追い詰められていく様子は、見ている側の心までじわじわと重く沈めてきます。演技は抑制されていてリアリティがある分、感情を揺さぶられるシーンが多く、どこまでも暗いトーンで進んでいく展開には、観る側としても気持ちが引きずられました。

 家族の苦悩や葛藤を丁寧に描いているのはわかりますが、正直なところ、そこに多くの時間が割かれすぎている印象もあったり。あまりに長く、悲しみに暮れる人々を延々と見せられると、気持ちが持たなくなってしまいます。映像も音も落ち着きすぎていて、救いのない状態がずっと続くように感じてしまいました。

 そして、いよいよクライマックスの殺陣のシーンに入りますが、ここでも演者たちはあくまで感情を抑えた演技を貫いていて、戦いとしての緊張感や盛り上がりには欠けていたと思います。殺陣そのものも技巧的ではあるけれど、原作同じで1962年版の『切腹』に比べると、対決の迫力や武士としての誇りと絶望が交差する重みはやや薄く感じました。

 ところどころに四季折々の風景が挿入されて、ビジュアル的には美しく、心を落ち着かせるような余白を持たせていたと思います。ただ、それが逆にテンポをさらに遅くしてしまっていて、話の進行を停滞させているようにも思えました。

 とはいえ、歌舞伎役者たちの演技の凄みはさすがで、特に眼光の鋭さや細かい所作においては圧倒されるものがありました。芝居における緊張感や品格を持ち込む存在感は際立っていました。

☆☆☆

鑑賞日:2011/10/15 TOHOシネマズ南大沢 2012/04/24 Blu-ray

監督三池崇史 
脚本山岸きくみ 
原作滝口康彦
出演市川海老蔵 
瑛太 
満島ひかり 
役所広司 
竹中直人 
青木崇高 
新井浩文 
波岡一喜 
笹野高史 
中村梅雀 
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