●こんなお話
柔道家がいろんな敵と戦う話。
●感想
冒頭からアクション全開のオープニング。前作で師匠・矢野正五郎が背水の陣で挑んだ戦いを彷彿とさせるような、見応えある戦闘描写で幕を開けます。戦いの構図と構図のぶつかり合い、その緊張感が画面越しにも伝わってきて、観ていて一気に気持ちが高まります。
久しぶりに道場へ戻ってきた姿三四郎は、かつて自らが破った柔術家の娘との再会を果たしつつも、見世物のようなボクシング試合への出場をきっぱりと断ります。この辺りの姿勢に、武道家としての矜持がにじんでいて、主人公の一貫した信念が丁寧に描かれていたように感じました。
しかし、時代の流れとともに柔道も社会の波に飲み込まれつつあり、三四郎の行動には賛否がつきまといます。そんな中、ひとりの柔術家が登場し、「君が柔術家を破ったせいでこうなった」と言い放つ場面には、空気が一変する重みがありました。その言葉に三四郎は言い返すことができず、静かに言葉を飲み込む。彼の中で、何かが揺らぐ瞬間がはっきりと映し出されていたと思います。
道場では四天王たちとの和やかなひとときも描かれますが、そこへ突然現れるのが、まるで山から下りてきたかのような野人の兄弟ふたり。前作で破った檜垣源之助の弟である鉄心と源三郎です。源三郎の威圧感が画面を覆うように伝わってきて、じわじわと怖さが押し寄せてきました。不気味な奇声を発しながら板を素手で叩き割るその様子には、思わず背筋が凍りそうになるような迫力がありました。
三四郎たちは、他流試合を禁じている立場から表立っての戦いを避けますが、三四郎自身の内には明らかに闘志が燃えています。この葛藤のなかで登場する師匠や和尚の語る言葉は、深遠で哲学的な響きを持ちながらも、正直、聞いていて少し難解な印象もありました。それでも、その言葉に耳を傾ける三四郎の姿勢が印象的でした。
なかでも一番心を打たれたのが、かつての強敵である檜垣源之助が病を患いながらも三四郎のもとを訪れる場面です。彼は静かに語ります。「弟たちとの戦いはやめてくれ、これは日本の武道のためだ」と。それでも「君はきっと戦うだろう」と続ける言葉には、かつて拳を交えた者にしか伝えられない複雑な信頼と諦念がこもっていて、胸が熱くなりました。
極意を伝え終え、三四郎の車で送られる途中、檜垣はふと「ホロは開けておいてくれ。この街を見るのは最後になるだろうから」と口にします。その言葉が意味するところに、言葉にならない感情があり、静かに訪れる別れの予感が、深く心に染みました。
そして物語は、いよいよアメリカ人ボクサーとの異種格闘戦、さらには雪山での檜垣鉄心との一騎打ちへと進みます。風が吹き抜ける雪の中、重く、そして静かな緊張が漂う中で繰り広げられる死闘は、まさにクライマックスにふさわしい仕上がりでした。
ただ、個人的には源三郎が突然の発作により試合に参加しないまま物語から退いてしまう展開には少し驚きがありました。あれだけの存在感を放っていたキャラクターだけに、そのまま終わってしまうことには惜しさも感じました。最後のまとめ方に少しだけ整いすぎた印象を受けたのも確かです。
それでも、三四郎という人物が戦いの中で何を守ろうとし、どんな道を選んだのか。その姿を見届けることで、日本の武道とは何か、誇りとは何かという問いが、観る者の胸に静かに残る作品だったと思います。
☆☆☆☆
鑑賞日:2012/04/15 DVD
監督 | 黒澤明 |
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脚本 | 黒澤明 |
原作 | 富田常雄 |
出演 | 大河内傳次郎 |
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藤田進 | |
月形龍之介 | |
河野秋武 | |
轟夕起子 | |
清川荘司 | |
森雅之 | |
宮口精二 |