映画【極道大戦争】感想(ネタバレ):暴走と笑いが止まらない娯楽の極み

yakuza-apocalypse
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●こんなお話

 ヤクザヴァンパイアとヴァンパイアハンターの戦いの話。

●感想

 三池崇史監督による、あまりにも三池監督らしい世界が全開に広がった作品で、冒頭から観客を強制的に映画の波へと引きずり込んでくる勢いがあります。ついていけない人は、本当にあっという間に置いていかれるタイプの作品ではありますが、そのテンポや突飛な演出に身体を任せてしまえば、笑いが止まらない映画体験になります。

 個人的には劇場で鑑賞しながら、何度もお腹を抱えて笑ってしまいました。久しぶりに「ここまでやるのか」と驚かされるほど振り切った映画に出会えた感覚です。

 物語は、ヤクザとヴァンパイアという一見相容れない存在が混ざり合う世界が舞台。ヤクザの親分が実はヴァンパイアであり、その血を引き継いだ主人公が次々と“カタギ”を襲っていく。しかも、その血を吸われた一般人たちが、今度はヤクザ化していくというトンデモ展開が続いていきます。設定の時点でもうすでに一線を越えていますが、それが物語の中でさらに暴走していくのがこの映画の魅力です。

 特に印象に残ったのは、父親を殺された少年がヴァンパイア化し、髪の毛をむいた瞬間に突然パンチパーマになるというシーン。予想を裏切るタイミングと見た目のインパクトに笑いが止まりませんでした。あの一連の流れだけでも、観る価値はあったと感じています。

 物語の中で、唯一まともなリアクションをしている人物として登場するのが、渋川清彦さん演じるヤクザの若頭。彼の困惑する表情や、あきれ果てたリアクションが物語の中で非常に良いバランスを取っていて、観客としても「ここに感情を置いておけばいいんだ」と思わせてくれる存在でした。「轢け! ヒキガエルだ」というセリフは、思わず声を出して笑ってしまった名言です。ヤクザ化した一般市民たちに頭を抱えるシーンの連続もとても面白く、日常の延長がどこまでも非日常へと変化していく不条理さが絶妙でした。

 また、高島礼子さんの演じるキャラクターも強烈で、カタギがいなくなったことで自ら新たに育てるという流れになり、畑から大量のブリーフを履いた子供たちが誕生してくるという、頭が追いつかないほどの描写に唖然としつつも、思わず笑ってしまいます。脳みそが耳から出てくるシーンもあり、全体的に五感がバグを起こしそうな感覚になりますが、それも含めてこの映画の魅力です。

 そもそもなぜヤクザの親分がヴァンパイアだったのか、そしてヴァンパイアハンターたちが何者なのかなど、物語の根幹を担うはずの情報があえて語られないまま進行していきます。しかし、この映画においてはその“不明瞭さ”自体が面白さであり、観客はただスクリーンに現れる突拍子もない出来事に身を委ねて笑ってしまえばよい、という姿勢を貫いているのが潔いです。

 登場するヴァンパイアハンターたちも、それぞれに強烈なキャラクターで、中でも関西弁で悪臭を放つカッパの存在は、登場するだけで頭にクエスチョンマークが飛び交います。そして着ぐるみのカエルくんが田んぼのあぜ道から現れて、颯爽とヤクザを倒すアクションを繰り広げる姿も、映像としての面白さが詰まっていて最高でした。

 全体としては、無茶苦茶でありながらも、その無茶苦茶さが非常に心地よくて、映画として大きな魅力になっています。テンポの良さもあり、途中までノンストップで笑わせてくれる構成なのですが、唯一、主人公とヒロインの関係性に関するパートだけはややテンションが落ちてしまったように感じました。ヒロインの存在意義が最後までよくわからず、それであれば突如成海璃子さんが現れて、ひたすらドラを叩いているだけの演出のほうがこの映画には合っていたのではないかとすら思ってしまいます。

 また、クライマックスの一騎打ちについても、それまでの勢いに比べるとやや失速した印象を受けましたが、それでもラストのカエルくんの正体が判明する場面では、あまりにも突き抜けすぎていて言葉を失いました。もはやこの映画が一体何を描こうとしていたのか、何のジャンルなのかという問いそのものが意味をなさない、そんな体験が最後まで続きます。

 理屈を超えて、体感で楽しむ映画。それがこの作品の本質であり、その狂気にどれだけ身を委ねられるかで、満足度が大きく変わってくる1本でした。たしかに好き嫌いは分かれると思いますが、笑いたい気分のときに観ると、まさに最強の娯楽映画として力を発揮してくれると思います。

☆☆☆☆

鑑賞日: 2015/06/27  TOHOシネマズ南大沢

監督三池崇史 
脚本山口義高
出演市原隼人 
成海璃子 
リリー・フランキー 
高島礼子 
渋川清彦 
三浦誠己 
ヤヤン・ルヒアン 
三元雅芸 
三津谷葉子 
渡辺哲 
ピエール瀧 
でんでん 

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