●こんなお話
ある日突然、謎の異星人に襲撃されてひたすら逃げるという話。
●感想
フェリーの港でコンテナを積み下ろす作業をしている主人公。彼のもとに、離婚した元妻が子どもたちを連れてやってきます。けれども子どもたちの視線は冷たく、どこか他人行儀な空気が流れていて、親子の間にある距離感がはっきりと映し出されていました。主人公も、父親としてどう子どもたちと向き合っていいのか分からない様子で、会話の端々に不器用さがにじみます。
そんな折、突如として雷が落ち、街の機能が一気に混乱し始めます。電気が止まり、車も動かなくなり、住民たちは混乱のなか原因を探って街の広場に集まっていきます。そこで目にしたのは、地面を割って出現する巨大な機械兵器。静寂を打ち破るように、ビームが放たれ、人々は次々と姿を消していく。逃げ惑う人々のなかで、主人公は子どもたちとともに車で脱出を図ります。目指すはボストンにいる元妻のもと。しかしその道のりは一筋縄ではいきません。暴徒化した群衆に車を奪われ、ようやく乗ったフェリーでは再びロボットに襲撃され、さらに途中で息子とはぐれてしまいます。
その後、親子は助けてくれた男性の地下室で一時的に身を隠すことになりますが、そこでも緊張の糸が切れることはなく、むしろ男の精神状態が徐々におかしくなっていく様子が不気味に描かれていきます。やがて主人公はやむを得ず男を手にかけるという、極限状態のなかでの選択を迫られる展開もありました。
やがて、娘が突如としてロボットの存在に反応して外へ飛び出してしまい、主人公もそれを追って外へ。そこでロボットに捕らえられてしまいますが、手榴弾を使って間一髪のところで脱出を果たします。ふらつきながらも歩き続けていた主人公は、ふと、敵ロボットの防御シールドが消えていることに気づき、それを軍へと伝えます。その情報をもとにジャベリンミサイルが放たれ、巨大な敵がついに倒れるという展開になります。
人類が反撃できる可能性が見えたその瞬間、主人公はボストンへたどり着き、元妻と子どもたちとの再会を果たします。ただ、エンディングに映る主人公の表情には安堵というより、どこか疲れ果てた絶望がにじんでいて、その心の変化が印象的に描かれていたと思います。
特に印象深かったのは、第1幕の終盤で異星人の兵器が初登場する場面です。低くうなるような重低音とともに住民たちが一瞬で消えていくシーンは、圧倒的な暴力を前に人間があまりにも無力であることを痛感させられる演出でした。長回しで迫ってくる映像とカメラのグイングインした動きも、混乱と恐怖をより強く体感させてくれて、映像として非常に引き込まれました。
ボストンを目指すという筋は明確ですが、その道のりに明るい希望があるわけではなく、全編を通してどこか常に絶望の影がついて回っているのも特徴的でした。次第に日常が壊れていく中で、死体を直接的には映さないものの、人々の消滅や破壊の描写がじわじわと緊張を高めていきます。光が飽和しているかのようなハレーションの強い映像や、闇夜にネオンや火が映える夜の美しさなど、視覚的な魅力も強く感じました。
そしてこの作品は、主人公の成長譚としても興味深い部分があります。冒頭で描かれる主人公は、父親としての自覚がまったくない人物で、子どもたちの食事は出前任せ、アレルギーの有無すら把握していないという状況からのスタート。そんな人物が、恐怖と混乱のなかで少しずつ人として、父親として変化していく様子は静かに積み重ねられていたように思います。それでも、環境が劇的に変化したわけではなく、最後の表情からも「救いがあった」というよりは「終わらない現実に向き合う覚悟」が描かれていたように感じました。
エイリアンのデザインが好みに合うかどうかや、息子が離脱してからの展開については偶然が重なりすぎている感もありましたが、それを含めても、人間が圧倒的な脅威に晒されたときにどう行動し、どのように変化していくのかを描いたドラマとして、非常に完成度の高い作品だったと思います。
☆☆☆☆
鑑賞日:2013/06/16 Blu-ray 2023/03/13 Amazonプライム・ビデオ
監督 | スティーヴン・スピルバーグ |
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脚本 | デイヴィッド・コープ |
原作 | H・G・ウェルズ |
出演 | トム・クルーズ |
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ダコタ・ファニング | |
ティム・ロビンス | |
ミランダ・オットー | |
リック・ゴンザレス | |
ジャスティン・チャットウィン |