●こんなお話
車を運ぶ主人公が警察とチェイスする話。
●感想
乾いたアスファルトに赤く揺れる発煙筒、道を塞ぐブルドーザー、頭上を低く飛ぶヘリコプター。そして、そこを猛スピードで駆け抜けていく一台の白い車から物語は始まる。何の説明もないまま、観客はまるで追われるようにその車を追いかけることになる。
主人公は、真っ白な車をある場所へ届けるという仕事を請け負い、街から街へ、高速道路や田舎道をひたすら走り続けていく。ラジオ局のDJが出勤してマイクの前に座る頃には、警察無線を通じて彼の存在が街に知られ始め、ニュースのように報道され、やがてリスナーたちの注目を集めていく。DJは放送を通じて彼にエールを送り、車のラジオを通じてそれを受け取った主人公は、微かに笑みを浮かべる。
回想のように挟まれる断片的な映像が、彼の過去を少しずつ明らかにしていく。彼は元々プロのドライバーで、レースに出ていた過去を持っていた。そして、愛する人を事故で失い、さらに警察官として勤めていた時期には、相棒の不正行為に目をつぶることができずに揉めたという背景も見えてくる。セリフで語られないその描写が、主人公の人生にじんわりと陰を落とす。
タイムリミットが近づき、目的地ももう間近。だがその先には巨大なブルドーザーが待ち構えており、逃げ場のない一本道で彼はハンドルを切る。白い車はそのまま突っ込み、大きな爆発が起こる。音もなく終わるエンディングは、説明もないままに観る者に余韻だけを残していく。
全体として、台詞に頼らず、映像の流れや音の使い方で物語を見せていく構成がとてもスタイリッシュでした。特に、カーチェイスにおけるエンジン音の存在感は非常に強く、音そのものが語りかけてくるような演出が印象的だったと思います。
回想が差し込まれるたびに時間軸がズレていく構成は混乱を生む一方で、観る側の想像力を刺激する作りになっていて、それが作品全体の魅力のひとつになっていたと感じます。
また、1970年代のアメリカという時代背景も強く印象に残りました。砂漠の一本道を何の制限もなく突き進む姿からは、広大な大陸の空気が感じられ、宗教活動に音楽を使ったり、ヌードの人物が日常の一部として存在したりする描写も、当時の若者文化や社会の空気感をうまく伝えていたと思います。
全編を通して感じる自由と孤独、暴走と静寂の対比が、この映画を一度観たら忘れられない体験にしてくれる一因になっていました。
☆☆☆
鑑賞日:2023/06/04 DVD
監督 | リチャード・C・サラフィアン |
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脚色 | ギラーモ・ケイン |
原作 | マルコム・ハート |
出演 | バリー・ニューマン |
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クリーヴォン・リトル | |
ディーン・ジャガー | |
ビクトリア・メドリン | |
ポール・コスロ | |
ティモシー・スコット | |
ギルダ・テクスター | |
セヴァーン・ダーデン | |
デラニー&ボニー&フレンズ |