映画【座頭市海を渡る】感想(ネタバレ):四国編:孤高の剣士が挑む、盗賊と村人の欲望が交錯する人間ドラマ

Zatoichi's Pilgrimage
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●こんなお話

 たくさんの人を斬った市が贖罪のために四国八十八箇所を巡るたびをする中、出会った女性のために戦う市の話。

●感想

 船上で揉め事が起こり、主人公の座頭市は刀を振り回す男の手を切断。その後、市はこれまでに多くの人を斬ってきたことを悔やみ、弔いのために四国を旅することになります。途中、馬に乗った男性に斬りかかられ、やむを得ずその命を奪います。すると、その男性の馬が市についてきて、共にとある村へ辿り着きます。

 村で案内された家は、なんと市が倒した男の家でした。妹が出迎え、市に斬りかかりますが、市は刀を避けずに傷を負います。その姿勢に驚いた妹は市を手当てし、やがて心を開いていきます。湖で一緒に遊んだりするなど、市は妹の保護者のような存在となっていきます。

 一方で、村では盗賊が力で支配しようと暗躍しており、かつて市を襲わせたのも彼らの指示でした。盗賊は村の名主に近づきますが、名主は巧妙に話をはぐらかします。市が盗賊のもとを訪れるも、妹を侮辱されたためその場を後にします。

 やがて盗賊が村を支配する日を宣言し、妹は村人たちに共闘を呼びかけますが、皆見て見ぬふり。名主は「座頭市と盗賊を争わせれば良い」と語り、村人たちは行動を起こしません。クライマックスでは、ただ一人市が立ち上がり、襲い来る盗賊たちと激闘を繰り広げます。大立ち回りの末、ボスを討ち取ると、妹が涙ながらに感謝し、市は村を後にします。

 新藤兼人脚本らしく、登場人物たちの心理描写や台詞回しが味わい深い一作でした。特に、村人たちの「弱さ」や「ずる賢さ」を通じて、戦う覚悟とは何かを問いかける物語となっています。市の奮闘に誰も加勢しない村人たちの姿と、最後に感謝を述べるのが女性一人だけという展開は印象的でした。

 また、盗賊のボスが放つ弓矢や、側近の坊主による槍の立ち回りも見応えがあり、登場時間が短くても強い印象を残す演出が光ります。クライマックスでは、人気のない宿場町に舞う砂ぼこり、青空を背景に繰り広げられる殺陣が、西部劇のような趣で非常にかっこよく仕上がっていました。

 反面、序盤の展開がやや冗長に感じられたのも事実で。階段をひたすら登るシーンや、遠くから歩み寄るカット、長回しの顔アップなど、テンポの遅さが気になりました。また、終盤に登場する若者がすぐに倒されてしまい、見せ場がなかった点も少々残念でした。

 とはいえ、座頭市シリーズの中でも、思想性とアクションの融合が光る力作でした。

☆☆☆

鑑賞日:2012/03/25 DVD 2024/10/26 BS12 トゥエルビ

監督池広一夫 
脚色新藤兼人 
原作子母沢寛 
出演勝新太郎 
安田道代 
五味龍太郎 
千波丈太郎 
東野孝彦 
井川比佐志 
田中邦衛 
三島雅夫 
山形勲 
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