●こんなお話
白人警官に殺され続けるタイムループにはまった黒人男性の話。
●感想
朝、女性の家で目覚めた主人公は、いつものように玄関を出て街へ向かう。しかしその道中、白人の警察官に呼び止められ、そのまま一方的に射殺されてしまう。理不尽な死に直面し、すべてが終わったかに思えたその瞬間、主人公は再びベッドで目を覚ます。何事もなかったように朝が始まり、また同じ展開が繰り返される。殺されては目覚め、また殺される。そのループの中で主人公は、生き延びる道を必死に模索し始める。
彼が繰り返す一日は、少しずつ選択を変えていくことで、異なる展開を生み出していく。けれども、どう動いても結末は変わらず、警察との接触はいつも命を奪う形で終わってしまう。その先に希望があるのか、あるいはないのか、観ている側にも常に問いを投げかけてくるような構成。
日本で日常的に暮らしていると、アメリカの黒人コミュニティが日々直面している現実がどれほど過酷で、またどういった背景があるのかというのを、つい遠いものに感じてしまうことがあると思います。しかし本作では、ただループものという物語の仕掛けで終わることなく、その繰り返しの中に現実の痛みをしっかりと落とし込んでいて、社会問題とエンタメをどちらも成立させている構成に強く心を動かされました。
銃口を向けられる側に立った視点を物語として提示することで、ただの「かわいそう」ではなく、その背後にある社会構造や歴史、そして日常の中に潜む暴力が静かに、しかし確実に迫ってくる。作品内で描かれる警官の暴力行為は、実際の事件をベースにしているとのことで、その現実味がなおさら胸に迫ってきます。
物語の終盤では、ある種の「答え」が見えそうになる瞬間もありますが、それすら絶対的な正解ではないという不確かさのまま進んでいきます。観る者もまた主人公と一緒に「どうすればよかったのか」を考え続けさせられる構造がありました。そしてエンドクレジットでは、かつて実際に命を奪われた黒人たちの名前が静かに並び、物語の重さを一層深く感じさせてくれます。
それでも諦めるな、というメッセージが、全体を通して静かに、でも確かに伝わってきました。悲しみや怒りの先に何があるのかを考えさせてくれる一本だったと思います。
☆☆☆☆
鑑賞日:2021/05/17 NETFLIX
監督 | トレイボン・フリー |
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マーティン・デズモンド・ロー | |
脚本 | トレイボン・フリー |
出演 | ジョーイ・バッドアス |
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アンドリュー・ハワード | |
キャメロン・アーリー |