●こんなお話
タクシー運転手と85歳の女性が、東京を巡りながら人生を振り返る話
●感想
夜明け前、個人タクシー運転手の宇佐美浩二は長い勤務を終えて帰宅する。疲れ切った体で家に戻ると、娘が音楽大学付属校への推薦入学を目指せることになったという嬉しい知らせを聞く。しかし、そのためには高額な学費や諸費用が必要だと知り、家計を支える父親として複雑な思いを抱えたまま床に就く。
そんな矢先、同業者から急な連絡が入り、対応できなくなった予約客を代わりに送ってほしいと頼まれる。宇佐美は依頼を引き受け、指定された場所へ向かうと、高野すみれという高齢女性を乗せる。
本来であれば老人ホームへ送り届けるだけの仕事だったが、すみれは目的地へ直行する前に「東京をもう一度見て回りたい」と願い出る。人生の終わりを迎える前に、自分にとって忘れられない場所を巡りたいという申し出を受け、宇佐美は戸惑いながらも車を走らせることにする。こうして二人は、東京の街を巡る一日限りの旅へと出発する。
移動を続ける中で、すみれは自身の半生を少しずつ語り始める。幼い頃に東京大空襲で父親を亡くし、戦後の混乱期を懸命に生き抜いたこと、やがて朝鮮人の青年と出会い、互いに惹かれ合って子どもを授かったことなど、胸に秘め続けてきた記憶を打ち明けていく。
しかし、その穏やかな時間は長く続かず、後に再婚した男性から激しい暴力を受けるようになり、子供に対する態度などで耐え続けた末にある日怒りが爆発する。すみれは夫の股間に油をかけて、その事件によって殺人未遂の罪で起訴され、服役することになった過去まで隠すことなく明かす。
やがて夜になり、宇佐美はすみれを老人ホームへ送り届ける。その前に二人は最後の食事を共にし、穏やかな時間を過ごす。別れ際、すみれは「ホテルに泊まりたい」と言うが宇佐美は拒否してホームへ入れる。
数日後、宇佐美は妻を連れて老人ホームを訪れる。しかし、そこで職員からすみれが亡くなったことを知らされる。突然の訃報に言葉を失った宇佐美は、そのまま葬儀に参列することになる。葬儀会場では弁護士から声をかけられ、すみれが生前に残していた遺言書と、一億円の小切手を託される。
エンドロールで、若き日のすみれが戦後に愛した朝鮮人の恋人と幸せそうに踊る姿が映し出されておしまい。
山田洋次監督作品らしく、登場人物が自らの人生を言葉で丁寧に語る場面が多く、序盤は説明台詞の多さが少し気になりました。しかし、物語が進むにつれて自然とその語り口に引き込まれ、不思議と心地よく感じられるようになります。
作中では東京大空襲や北朝鮮への帰国事業といった歴史的出来事にも触れられており、一人の女性の人生を通して昭和という時代を振り返る構成になっています。また、DVという社会問題も描かれていますが、登場人物の歩んできた人生の一部として描写されており、時代背景への理解も深まりました。
一方で、タクシー運転手・宇佐美が抱える娘の進学費用という現実的な問題も並行して描かれます。ただ、このエピソードは物語全体の中ではやや存在感が薄く、終盤の展開へ向けた役割が中心という印象を受けました。
全体としては会話を軸にした作品であり、派手な展開を期待すると物足りなさを感じるかもしれません。一方で、人生の歩みや昭和の歴史、人との出会いをじっくり味わいたい方には、山田洋次監督らしい温かさを感じられる一本でした。
☆☆☆
鑑賞日:2026/08/01 DVD
| 監督 | 山田洋次 |
|---|---|
| 脚本 | 山田洋次 |
| 朝原雄三 | |
| 原作映画「パリタクシー監督 | クリスチャン・カリオン |
| 出演 | 倍賞千恵子 |
|---|---|
| 木村拓哉 | |
| 蒼井優 | |
| 迫田孝也 | |
| 優香 | |
| 中島瑠菜 | |
| 神野三鈴 | |
| イ・ジュニョン | |
| マキタスポーツ | |
| 北山雅康 | |
| 木村優来 | |
| 小林稔侍 | |
| 笹野高史 | |
| 大竹しのぶ |

