映画【THE ICEMAN 氷の処刑人】感想(ネタバレ):氷のように冷たい感情を抱えた男の物語

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●こんなお話

 100人以上を殺したって言われてる殺し屋の日常の話。

●感想

 主人公とヒロインの出会いから結婚までが、テンポよく短い時間で描かれていきます。幸せそうな二人の家庭が映し出される中、同時に主人公が非常に危うい人物でもあることが示されていきます。怒りに任せて人を殺めることに迷いがない姿は、観ていて背筋が冷えるようでした。序盤のスピード感ある展開と、どこか乾いた暴力描写のバランスが印象に残ります。

 物語の舞台は1960年代から1970年代にかけてのアメリカで、映像にはどこかセピアがかった色調が施され、時代の雰囲気を効果的に伝えていました。車の形や街並み、服装やインテリアなど、細部に至るまで時代考証が丁寧で、そうした映像的な魅力には心惹かれるものがありました。

 主人公は表向きには金融関係の仕事に就き、家庭では妻と二人の娘とともに穏やかな日常を送っています。しかしその裏では、冷徹な殺し屋として暗躍しており、殺しのプロとして次第にその名を広めていきます。人を殺すという行為が、彼にとってどこか日常に溶け込んでしまっているような雰囲気があり、そのギャップに不気味さを感じました。

 ただ、なぜ彼がこうした人物になったのかという内面や過去については、あまり多くが描かれていません。子ども時代の断片的なエピソードや、服役中の弟との会話の中にかすかにその背景が滲みますが、深く掘り下げられることはなく、観る側に想像を委ねる構成となっています。彼がどのようにして暴力を自分の武器に変えたのか、その過程が曖昧なままなので、感情的に寄り添うのがやや難しい部分もありました。

 それでも、家族を守るために手を汚していく姿には、一種の悲しさと緊張感がありました。愛する者のために稼がなければならず、だがその行為が結果として家族を不幸にしていくという矛盾。その構造自体は古典的なギャング映画の王道ともいえますが、その分安心して身を委ねられる魅力も感じます。

 作中、主人公は「女子どもは殺さない」という独自の倫理観を持ち続けているのですが、そのポリシーが原因でボスの信頼を失い、仕事を干されてしまいます。そこからは孤独な殺し屋として、氷を使って遺体を処理するなど新たな手法で仕事を続けることになります。フリーランスの殺し屋と手を組んで活動する姿は、冷徹さと孤独が入り混じっていて印象的でした。

 次第に彼の中に疑念が芽生え、誰が敵で誰が味方なのか分からなくなっていきます。周囲の人間を次々と始末していく中で、ついには家族にまで疑いの目を向けられてしまう。そうした追い詰められていく過程は終始緊張感があり、目を離せない展開だったと感じます。

 目新しい仕掛けや予想を覆すような展開こそ少なかったかもしれませんが、終始一定のテンションを保ちながら、静かに狂気へと沈んでいくひとりの男の人生を見届ける映画として、しっかりと観ることができました。

☆☆☆

鑑賞日:2014/08/13 DVD

監督アリエル・ヴロメン 
脚本アリエル・ヴロメン 
モーガン・ランド 
原作アンソニー・ブルーノ 
出演マイケル・シャノン 
ウィノナ・ライダー 
レイ・リオッタ 
クリス・エヴァンス 
ジェームズ・フランコ 
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