●こんなお話
全米一荒れてる刑務所で、このままだとクビになっちゃうとキレてる所長が囚人たちの更生プログラムとしてムカデ人間にしちゃう話。
●感想
1作目・2作目に登場した主人公たちが再びスクリーンに姿を現すという点で、シリーズを追いかけてきたファンにとっては特別な作品になっていたと思います。映画の世界の中で、登場人物たちが前作の映像を観て「これをやってみよう」と模倣していくという構造も健在で、作中で作品自体が参照されるというメタ的な仕掛けが今回も丁寧に盛り込まれていました。さらに北村昭博さんがカメオ出演していたのもファンにはうれしい演出だったかと思います。
物語の主軸となるのは、刑務所の所長がムカデ人間の発想に取り憑かれ、何とかしてそれを実現しようとするプロセスです。ただ、その着想から実行に至るまでの展開が意外と長く、映画全体のテンポはややゆったりとしています。その間ほぼ全編を通して主演のディータ・ラーザーさんがスクリーンに登場し続け、全身全霊の演技で叫び、怒鳴り、狂気を炸裂させます。彼の芝居は強烈で、確かに目が離せなくなる魅力もありましたが、観ていて少し疲れてしまうほどの熱量を感じました。
作品全体としては前作よりもコメディ色が強めで、狂気のなかに笑いを滲ませる演出が目立っていました。緊張感というよりはブラックユーモアとして消化された表現が多く、個人的には不意に笑ってしまうようなシーンも多々ありました。ただ、そのぶん本来このシリーズが持っていたショック性やゴア描写の強度については、やや抑えめに感じました。残酷描写もあくまでコミカルな演出のなかに取り込まれているため、観る側にとって強烈な印象を残すシーンは少なかったように思います。
また、肝心のムカデ人間が登場する場面では、カメラワークが引きの映像に終始していた印象が強く、構造や連結の妙といったものにフォーカスされていなかったことが、やや物足りなさにも繋がったかもしれません。せっかくのクライマックスにもうひと工夫欲しかったと思う気持ちもありました。
それでも、これまでのシリーズを楽しんできた方にとっては、過去作品のオマージュやキャストの再登場など、ファンサービス的な要素も多く用意されているため、シリーズをまとめる作品として意味のある一本だったと感じています。観終わったあとには、三部作としてひとつの世界がきちんと形になっていた満足感もあり、ファンならではの楽しみ方ができる作品だったのではないでしょうか。
☆☆
鑑賞日: 2015/12/05 DVD
監督 | トム・シックス |
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脚本 | トム・シックス |
出演 | ディーター・ラーザー |
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ローレンス・R・ハーヴェイ | |
エリック・ロバーツ | |
北村昭博 | |
ブリー・オルソン | |
ロバート・ラサード | |
トミー・タイニー・リスター | |
トム・シックス |